村上龍on Bob Dylan

承前*1

村上龍*2「「We Love Dylan」」http://best-times.jp/articles/-/4056


曰く、


ノーベル文学賞ボブ・ディランに決まった。意外だったが、うれしかった。ノーベル・アカデミーもなかなかやるなと思った。ノーベル文学賞に関しては、村上春樹さんが、10年くらい前から必ず大きな話題になるが、ご本人はきっと迷惑だろうなと思う。わたしは春樹さんがノーベル文学賞を欲しがっているとは思えない。さすがにどうでもいいとは思っていないだろうが、できたらそっとしておいてくれと思っているはずだ。わたしは例年、春樹さんの受賞に関しコメントを用意している。それもフルバージョンと、短縮版の2パターンあり、毎年細かな修正を加える。こんなことがいつまで続くのだろうと思いながら、書いている。

 今の日本には明るい話題がほとんどないので、ノーベル賞は必ず大きな話題となる。だが、当たり前のことだが、ノーベル賞の受賞者は個人で、日本が受賞するわけではない。自然科学の分野では、国家としての成熟度が影響し、多くの協力者がいるが、それでも受賞するのは「個人」だ。


ボブ・ディランは、リアルタイムで聞いていたし、1976年にはじめてNYに行ったとき、荷物をホテルに置いて、すぐにグリニッジヴィレッジに行き、ディランが歌っていたというコーヒーハウスに行った。そこでは、新人の歌手たちが、ディランのヒット曲を歌っていた。ディランの独特の声と歌い方を真似する歌手もいて、やはり本物とは違うなと妙に納得したりしたが、それでも懐かしかった。

 だが、実はリアルタイムで聞いていた中学高校のころ、ディランより「サイモン&ガーファンクル」のほうが好きだった。ディランの偉大さは中学生にも理解できたが、「これはアメリカ人のための歌で、アメリカ人ための歌詞だ」と思ったのだった。異論を恐れずに言えば、ディランの革命的な歌詞が成立している下地は、まさにカントリー&ウエスタン、それにブルースにある。実際、ディランが最初に憧れたのはハンク・ウィリアムスだったらしい。比較すると、「サイモン&ガーファンクル」は、どこか無国籍で洗練されていて、聞きやすかったが、ディランは違った。

 もちろんディラン自身は「ぼくの歌がアメリカ人のためのものだ」などとは言っていないし、言わないかもしれない。だが、わたしにとっては、ジャクソン・ポロックやモハメッド・アリ、アンディ・ウォーホルデニス・ホッパーなどと並んで、アメリカ文化そのものだった。

ここでは詳論できないが、村上氏がディランの「下地」に「カントリー&ウエスタン」と「ブルース」を見出しているのは炯眼と言うべきだろう。たしかに、S&Gに「無国籍」というか脱米国的なところがあったのは確かだろう。「コンドルは飛んで行く」だったしね。それからすると、後にポール・サイモンが『グレースランド*3で内外への旅、というかアメリカン・ルーツ・ミュージックへの遡行とワールド・ミュージックの探求を同時に敢行しているのは興味深い。
Graceland

Graceland

ところで、「ボブ・ディラン」という名前を初めて知ったのは、ガロの「学生街の喫茶店」だった。そういう人というのは、私の前後の世代には実は多いのではないか。それかから、五木寛之のエッセイ集『風に吹かれて』がディランの曲名を踏まえているというこに気付いたのは、そのエッセイ集を読んでから1年以上経ってからだ*4。まあ、中学時代にはあまり音楽に興味がなかったからだとはいえるけれど。私よりも下の世代にはディランじゃなくてデュラン・デュランの方が馴染みが深いのだろうけど、あの『ライヴ・エイド』のフィナーレににキース・リチャーズロン・ウッドを従えて登場したボブ・ディランを見て、その存在感に驚いた人も多かった筈*5
風に吹かれて (集英社文庫)

風に吹かれて (集英社文庫)

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161014/1476452526 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161018/1476760956 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161029/1477759250 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161117/1479397043 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161207/1481124600 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161212/1481508043 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161214/1481675281

*2:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050630 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060521/1148175252 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061008/1160276835 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070120/1169274863 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070207/1170842753 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070904/1188883198 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080724/1216900400 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090111/1231603370 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090816/1250443444 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090827/1251405021 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090911/1252642373 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091001/1254415874 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091106/1257474523 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100304/1267675626 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100313/1268459583 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101010/1286679169 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110104/1294114040 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131011/1381504737 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131103/1383409222 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131112/1384222612 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140802/1406940639 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160328/1459129343

*3:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070603/1180900509 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070816/1187235187

*4:amazon.co.jpを検索しても、私が読んだ角川文庫版は見つからなかった。

*5:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141114/1415984071