或る教訓

小谷太郎「捏造事件に騒然! ネイチャー論文に画像加工疑惑」https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190306-00055654-jbpressz-sctch&p=1


曰く、


先日2019年2月20日科学誌『ネイチャー』が1篇の論文の撤回を発表しました*1

 2018年9月5日に発表されたこの論文は、脳腫瘍(しゅよう)の免疫療法を開発したと主張するもので、これが本当なら何万もの患者を救う朗報です。開発の主役は、「エジプト小児がん病院57357」のヘバ・サマハ氏という女性研究者です*2

 しかし発表から6週間後、この論文への疑惑があるサイトに投稿されました。画像がコピペと加工で作られているというのです。加工の指摘はあちこちから相次ぎ、論文の画像のほとんどがフォトショップを駆使した「労作」であることが明らかになってしまいました。

 指摘を受けた共著者たちは論文の撤回に同意しましたが、ひとりヘバ・サマハ氏だけは同意しませんでした。

PUBPEERというサイトの力;

発表から6週間経った2018年10月18日、「PUBPEER」というインターネット掲示板に、この論文への告発*2
が投稿されました。 *2:https://pubpeer.com/publications/D569C47E7BE09AD9D238BA526E06CA

 PUBPEERは科学論文を話題とする主に研究者向けの掲示板で、ここへは捏造の指摘が時おり投稿されます。(STAP細胞論文の際も、発表の1週間後にはこのサイトで図の加工が指摘されました。)

 しかし今回指摘された、サマハ氏の論文の画像加工は、実に驚くべき量です。百聞は一見にしかず、下のリンクをいくつかクリックして御覧ください。

 https://images.pubpeer.com/qD7vz2qpJxgDhSDAZYDIUmGtxdXXJ1tC-bZyQJOcRh8/resize:fit:705:705:0/aHR0cHM6Ly9wdWJwZWVyLmNvbS9zdG9yYWdlL2ltYWdlLTE1Mzk2NjM0NjY1MTAuanBn.jpeg

 https://images.pubpeer.com/XYc_HXDnnRV6KS2jrFP1hEmKJkrMTzloJBjxbkT7GKI/resize:fit:705:705:0/aHR0cHM6Ly9wdWJwZWVyLmNvbS9zdG9yYWdlL2ltYWdlLTE1Mzk2NjM0OTQyNDkuanBn.jpeg

 https://images.pubpeer.com/VDRP2N6K-SP2idmzIYyVh-gRh4oRUvI7OHBij28Jn2k/resize:fit:705:705:0/aHR0cHM6Ly9wdWJwZWVyLmNvbS9zdG9yYWdlL2ltYWdlLTE1Mzk2NjM0OTY4NzYuanBn.jpeg

 https://images.pubpeer.com/pY9wrjXFJ7TbT_LeZELtQ8hzI9NVhJlw79fOpiNTeXU/resize:fit:705:705:0/aHR0cHM6Ly9wdWJwZWVyLmNvbS9zdG9yYWdlL2ltYWdlLTE1Mzk2NjM0OTk1MjAuanBn.jpeg

 https://images.pubpeer.com/awnu0xBTDXkqPAdOPcyWBJo8b8Pgr63EpSIVzq6Iiz0/resize:fit:705:705:0/aHR0cHM6Ly9wdWJwZWVyLmNvbS9zdG9yYWdlL2ltYWdlLTE1Mzk2NjM1MDI2NzAuanBn.jpeg

 https://images.pubpeer.com/0glledLd6kKRu2isL9fNVslcF0DkeJX4THHR3rUSJ10/resize:fit:705:705:0/aHR0cHM6Ly9wdWJwZWVyLmNvbS9zdG9yYWdlL2ltYWdlLTE1Mzk2NjM1MDUyNTcuanBn.jpeg

 https://images.pubpeer.com/8C-nAiLuASn9vSQw8sbHzOgEmIOfwYFkBm-DqyhkyHQ/resize:fit:705:705:0/aHR0cHM6Ly9wdWJwZWVyLmNvbS9zdG9yYWdlL2ltYWdlLTE1Mzk2NjM1MDc3MzEuanBn.jpeg

 御覧のとおり、誘導攻撃論文の図は、ほとんどがコピペと切り貼りでできています。それも、同じ論文中のすぐ隣の図からのコピペです。よく言えば大胆不敵、悪く言えば稚拙(ちせつ)で杜撰(ずさん)です。隠そうとする意志すら感じられません。(筆者は学生のレポートを採点して、写しやコピペを見つけたこともありますが、ここまでひどい例はちょっと思い出せません。)

 画像加工は上記で全部ではありません。この指摘を皮切りに、PUBPEERにはこの論文の画像加工の指摘がどんどん集まりました。もう無事な図はほとんど残ってないありさまです。

 騒動を受けて、ネイチャー編集部は2018年10月25日に、この論文のデータは批判を受けていて、現在調査中であると注意喚起しました。

そして、教訓;

提言ですが、学術誌や学術出版社などの編集部は、投稿論文の学術的な査読とは別に、その論文の画像加工や文章の剽窃などの不正をチェックする仕組みを設けるべきでしょう。共著者や査読者は論文が学問的に確かかどうかを保証し、コピペの有無はコピペ発見の専門家が見る分業体制のほうが、捏造論文をリジェクトするのに有効です。学問の専門家に、同時に詐欺や不正についての専門家になるように期待するのは、無理というものです。
たしかに。また、「画像加工」や「剽窃」のチェックはかなりの程度機械的に行うことが可能な筈。理系の論文の不正において(表やグラフを含む)「画像」の不正な加工或いは捏造は殆ど必ず伴うので*3、本文の査読以前に「画像」のチェックを行なえば、不正論文をかなりの精度で淘汰することが可能になるのでは?