From STAP to stop?

〈STAP論文〉問題だが、あまりにも展開が速すぎ*1。〈STAP論文〉への疑問から、さらに小保方晴子さんの博士論文の剽窃が問題になっている。
理化学研究所のトップが謝罪&経過報告のための記者会見を開いたが*2、流れとしては論文の撤回に傾いてしまっているようだ。理化学研究所幹部の竹市雅俊「発生・再生科学総合研究センター」センター長は「論文としてもはや存在すべきではない」とまで述べている*3
以下は自分用のメモ。
事件の一連の流れを巡っては、3月3日付けの記事だが、『週刊現代』の


「関係者たちが固唾を呑む「STAP細胞捏造報道 小保方晴子さんにかけられた「疑惑」」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38538


という記事。また、事件の概要を知るという意味でも、石田雅彦「なぜ『nature』は「STAP細胞」論文を掲載したか」*4から長いコピペをしておく;


(前略)『nature』掲載の論文に対し、画像などのデータに不自然なものがあると指摘され、多くの研究者が追試しても再現性がない、と疑惑の目が注がれている。論文の「捏造」説まで出て、マスメディアをはじめ、ネット上でも「賛美」から急転直下「バッシング」されるまでになっています。論文筆頭筆者の小保方晴子氏が「雲隠れ」する中、所属先の理化学研究所も内部調査と検証を続けているようです。

一方、共同研究者で論文にも名を連ねる山梨大学若山照彦教授は、小保方氏を含む2本の論文で合計14人いる共同執筆者らに論文の取り下げと再検証を呼びかけています。当初、研究の精査にはもっと時間が欲しい、と言っていた若山教授が、論文の撤回というかなり後ろ向きの姿勢に変化したのは、自分で論文を調べてみると「信じられないほど多くのデータの間違い」があったことがわかったかららしい。若山教授が「STAP細胞」理論の前提としていた画像データにさえ、過去のものからのコピーが疑われ、それに気づいたのが大きな理由のようです。

しかし「STAP細胞」研究や理論が、まったくの「デタラメ」だったかどうかを即断するのはまだ早いと思います。既存の概念を超越したまったく新しい研究技術は、批判にさらされてブラッシュアップし、多くの研究者らによって不備が補完され、少しずつ完全なものに仕上がっていく。もちろん、今回の論文のように多くのケアレスミスとも言えない間違いや「捏造」とまで疑われるデータがあれば、意図的で悪意ある作為、と言われても仕方ないかもしれません。しかし、ほ乳類の細胞でも「外的なストレス」を受ければ幹細胞的な機能を獲得する、普通の細胞は高いポテンシャルを持つ、という発想や仮説は高く評価されてもいいでしょう。

小保方氏が博士号を取得したのは2011年です。理化学研究所の研究員になったのも同時期。これほど若く業績もほとんどない研究者をなぜ理研がユニットリーダーにしたのか、という点も不可解なんだが、理研の内部にも苛烈な「生存競争」や「権力闘争」のような派閥争いがあるのかもしれません。理研という組織自体、名前はよく知られているものの、内部組織については「ブラックボックス」のような部分もあります。理研に今回の騒動の説明責任があるのは間違いありません。

STAP細胞」がこれだけ注目された理由は『nature』に掲載された、ということが無視できないでしょう。日本のマスメディアはなぜか『nature』を金科玉条のように扱っているんだが、同誌に掲載された論文の半分はのちの検証で間違いだったことが判明するそうです。もちろん『nature』では専門家らに論文を査読させ、ある程度の裏付けを取ってから掲載します。しかし、それも完全ではあり得ない。これまで世界中に出ている全ての論文や画像データに目を通し、それらを正確に記憶している査読者などいません。

遺伝子工学を含めた生理学の分野は、多額の利益を生み出すため、研究者や研究機関は厳しい競争にさらされています。論文の盗用や剽窃はもちろん、捏造でさえ日常茶飯事と言われている。ある仮説に基づき、研究理論を演繹的に構築していく場合、反証が出てきて否定されることはいくらでもあります。研究開発は一種の「戦争」になり、勝つか負けるか、という過酷な環境の中で、今回の論文のようなものが、スルッと『nature』に掲載されてしまうこともある。

同論文を『nature』は何度も突き返したそうです。そうした過程で『nature』にとって具合のいいデータばかりが残るようになり『nature』の審査を通ることが自己目的化し、さらに、成果が出た、ということで論文査読を通過してしてしまった。掲載に至った背景は、内部調査を継続中の『nature』からまだ発表はないんだが、こうしたことが起きていた可能性が高い。

それから、「日本分子生物学会」の声明を巡る記事;

ITmedia ニュース 3月11日(火)17時19分配信
日本分子生物学会、STAP細胞論文への厳正な対応求める 「単純ミスの可能性をはるかに超えている」


 日本分子生物学会は3月11日、不自然な点が複数指摘されている「STAP細胞」論文への撤回を視野に入れた適切な対応と、事態を招いた原因の検証・報告を理化学研究所に対し「強く要望」する大隅典子理事長名の声明を発表した。

 英科学誌「Nature」に投稿された新型万能細胞「STAP細胞」に関する論文に不自然な点が複数指摘されている問題に対し、(1)データに欠点が多く、結論が科学的事実に十分には担保されていない、(2)多くの作為的な改変があり、「単純なミスである可能性をはるかに超えており、多くの科学者の疑念を招いている」──と指摘。「当該研究の重要性は十分に理解していますが、成果の再現性は別問題として、これら論文に対しての適正な対応を強くお願いします」としている。

 またSTAP細胞の研究主体となった理研に(1)Nature論文に関する生データの即時・全面的な開示と、撤回や再投稿などを含む迅速かつ適切な対応、(2)公正性が疑われるような事態を招いた原因に対する詳細な検証と報告――の2点を「強く要望」している。

 今回の問題は単体ではなく「科学者を取り巻く環境を含めた課題であり、自省と自戒を持って注視している」とし、「我々、研究者が今一度、研究の公正性を含む研究倫理の問題として再度真剣に把握、分析し、システムの改善の努力に取り組む所存」と述べている。

 同学会は3日にも本件に関する理事長声明を発表していた。「日本の科学をリードする研究機関の一つである理化学研究所が、可能な限り迅速に状況の正確な報告について公表されるとともに、今後の規範となるような適切な対応を取って下さることを本学会は期待します」と結んでいた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140311-00000067-zdn_n-sci

そして、「博士論文」問題。
『毎日』の記事;

STAP細胞:小保方さん博士論文 米文書と同一記述

毎日新聞 2014年03月12日 00時03分
 ◇英文で記載の博士論文、第1章20ページにわたり


 新たな万能細胞「STAP細胞(刺激惹起<じゃっき>性多能性獲得細胞)」研究を主導した理化学研究所小保方晴子・研究ユニットリーダーが早稲田大大学院生だった時の博士論文に、米国立衛生研究所(NIH)のホームページに掲載された文書とほぼ同一の記述が約20ページにわたりあることが11日、分かった。研究の不正に詳しい専門家は、コピー・アンド・ペースト(コピペ、複写と貼り付け)だとすれば、やってはいけないことだと指摘。同じ博士論文の別の疑問点を調査中の早大は「情報として把握し、調査している」と話している。

 博士論文は英文で記述され、2011年2月付。日本語のタイトルは「三胚葉由来組織に共通した万能性体性幹細胞の探索」。目次などを除き108ページからなり、第1章の約20ページで幹細胞の重要性や当時の研究状況をまとめている。

 しかし、このほとんどが、NIHがホームページで「幹細胞の入門書」として掲載している文書と記述が同一だった。ホームページで「文書」とされている単語が「節」となるなど一部の表記や見出し、構成が変わっている。NIHのホームページによると、この文書が最後に修正されたのは09年だった。引用や参照したとの記述は論文にはなかった。

 小保方さんはこの論文で博士号を取得後、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの客員研究員に就いた。

 小保方さんらがSTAP細胞の作製成功を報告した英科学誌ネイチャーの論文は数多くの疑問点が指摘され、取り下げが検討されている。論文の補足部分が、05年に米科学誌に掲載されたマウスのES細胞(胚性幹細胞)に関する論文と10行にわたりほぼ同一だった問題も指摘され、理研が調べている。

 早大は今年2月、博士論文に不自然な画像があるとの指摘を受け、調査を開始。早大広報課によると、調査の過程で今回の問題に気付き、調査対象に加えたという。調査結果が、学位審査に関わってくるかどうかも検討しているという。【根本毅、吉田卓矢】
http://mainichi.jp/select/news/20140312k0000m040149000c.html

また、謎の「参考文献」問題。『朝日』の記事;

小保方さんの博士論文、参考文献リストもコピペか
編集委員・浅井文和
2014年3月12日11時44分


科学誌ネイチャーに掲載された新しい万能細胞「STAP(スタップ)細胞」論文の筆頭著者、理化学研究所の小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダーが早稲田大に提出した英文の博士論文で、参考文献リストが他の論文と酷似していることが12日わかった。リストは論文の根拠となる文献を示すもので、学位取り消しの検討が求められる状況となっている。

博士論文は2011年2月付。動物の体中から万能性をもつ幹細胞を見つけ出すもので、STAP細胞の論文ではない。章別に参考文献リストがある。たとえば、第3章では本文に引用の印がないのに、文献リストには38件分の著者名、題名、雑誌名、ページが列挙されている。これは10年に台湾の病院の研究者らが医学誌で発表した論文の文献リスト53件のうち、1〜38番とほぼ一致した。博士論文では一部文字化けしている文字があり、コピー・アンド・ペースト(切りばり、コピペ)の可能性がある。リストは著者名のABC順。元論文の38番はPで始まる姓のため、ありふれたSやTで始まる著者名が博士論文にはないという不自然さがあった。

 普通の論文では本文で文献を参照した箇所に(1)などの番号を添えるが、図を除いて5ページある第3章の本文にはこのような番号はつけられていない。このため、意味不明な参考文献リストになっている。
http://www.asahi.com/articles/ASG3D32NBG3DULBJ002.html

コピペが疑われている「第1章」というのは、(想像するに)先行研究のサーヴェイとレヴューであり、勿論日頃のお勉強ぶりをひけらかすという意味もあるのだが、それだけでなく、この作業によって研究が学史的に位置づけられ、論文の先行研究との連続性と非連続性(新しさ)が示されるということになるだろう。論文の要となる理論と実験は先行研究のサーヴェイとレヴューを踏まえたものであるべきなのだが、理論と実験が適切であるならば、先行研究のサーヴェイをずるしたとしても、論文の価値が100%否定されることにはならないかも、と考えたのだが、どうなのだろうか。
そしたら、小保方さんが「博士論文」について変なことを言っているという記事を読んだ。WSJ(日本語版)の記事から*5

小保方氏は14日朝にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)宛てに電子メールを送り、2011年に博士号を取るため早稲田大学に提出した博士論文の無断引用疑惑について回答した。

 問題の博士論文は、幹細胞の研究成果をめぐる疑惑を追跡している匿名のブロガーがネットに掲載したもので、その一部が米国立衛生研究所(NIH)のサイトの文章と酷似している。

 小保方氏は電子メールで「現在、マスコミに流れている博士論文は審査に合格したものではなく下書き段階の物が製本され残ってしまっている」と説明。

 さらに、下書き段階で参考のために転載した文章や図表が引用も訂正もなく、そのまま残っていると述べた。大学側には、小保方氏が下書きだとしているこの論文の撤回を要請したという。

 早稲田大学の広報担当者は、そのような要請は認識しておらず、別版の博士論文についても知らないと述べた。また、大学による博士論文について指摘された疑問点に関する調査は継続中だと話した。

誰が「下書き」を「製本」するのかとか思っていたら、今度は「博士論文」「取り下げ」の意向が報道された。『毎日』の記事;


小保方さん:2011年早大博士論文取り下げの意向

毎日新聞 2014年03月15日 19時02分(最終更新 03月15日 23時45分)


 新たな万能細胞「STAP細胞(刺激惹起<じゃっき>性多能性獲得細胞)」の作製を発表した理化学研究所小保方晴子・研究ユニットリーダーが、2011年に博士号を取得した早稲田大の博士論文を取り下げる意向を、関係者にメールで伝えていたことが分かった。小保方さんの博士論文を巡っては、別の文献とほぼ同一の記述があったことなどが指摘されており、早大が調査を進めている。

 早大関係者が取材に明らかにした。また、早大広報課は「大学への正式な申し出はないが、学内の教員に意向が伝えられたことは把握している」と説明した。

 万能細胞をテーマにした英文の博士論文は、目次などを除いて108ページ。博士論文で引用した小保方さんらによる別の論文画像に使い回しの疑いがインターネット上で指摘されたことを受け、早大が先月18日に調査を始めていた。その後、博士論文前半部分の約20ページ分が、米国立衛生研究所(NIH)のホームページに掲載されている文書とほぼ同一だったことが判明している。

 博士論文は当時の指導教官やSTAP細胞論文で共著者だった米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授ら4人が審査した。早大は審査した教員らにも聞き取りをしているという。

 理研は14日の記者会見で、「制度的には学位を持ってなくても理研で働くことは可能だ」と説明した。【八田浩輔】
http://mainichi.jp/select/news/20140316k0000m040030000c.html

こちらの方には、「博士論文」のヴァージョン問題への言及はなし。
所謂「研究不正」に関してはhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131223/1387787392 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131228/1388233122を参照のこと。また「剽窃」による「博士学位取り消し」についてはhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131022/1382381264 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131023/1382506909*6

*1:最近、この事件に限らずそう感じることが多いのだが、もしかしてそれは加齢のせい?

*2:See 「STAP細胞:理化学研究所の会見一問一答」http://mainichi.jp/feature/news/20140314mog00m040006000c4.html

*3:「STAP細胞:会見(2)「論文としてもはや存在すべきではない」竹市センター長」http://mainichi.jp/feature/news/20140314mog00m040004000c.html

*4:http://agora-web.jp/archives/1585914.html

*5:ALEXANDER MARTIN「「下書きで使った物が残っている」―小保方氏、博士論文巡る疑惑で」http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304730304579438263049340856.html

*6:これも舞台は早稲田大学