今村翔吾「ラジオを文字で楽しむ」『毎日新聞』2022年10月16日
『湊かなえのことば結び』という本について。
(前略)これはFM大阪で、湊かなえ*1が2020年6月3日から、22年3月30日までパーソナリティを努めておられたラジオの内容を纏めたもの。いわばラジオ本なのである。
自作に籠めた想いや譲れない拘り、作品ができるまでの裏話、小説かを志す方へのアドバイス、お住まいになっている淡路島についてなど、ファンでなくても興味深い話のオンパレードである。一応は同業である私にとっての有益な情報が盛りだくさんである。
故にこのラジオを聴いた時、いつも私は「もったいない」と思っていた。ラジオだと形として残らないからだ。昨今はさまざまなサービスで聴き逃し配信などもあるが、それにも放送後2週間などの期限があり、改めて聴くにも限界がある。ラジオは他のメディアに比べると、一期一会の性質が強いだろう。
勿論、それがラジオの良さでもある。流れてゆくからこその自由さと、言葉の一瞬の煌めきを楽しめる。だが中には、溜めておいたほうが良いと思われるものも存在する。湊かなえ先生のラジオはそちらだと思っていたので、このように一冊の本に纏まったことは、嬉しくもあり、ありがたくもあった。
言葉とは表現方法、受け取る側の状態によっても変化が生じるものだ。当時、ラジオを聴いていた方も、こうして改めて文字として見ると印象ががらりと変わり、また違った楽しみ方ができるのではなかろうか。