「類似表現」と「おわび」

朝日新聞』の記事;


芥川賞候補作、参考文献示さず類似表現 掲載誌でおわび
2018年6月29日10時59分


 今年5月に群像新人文学賞を受け、7月に選考のある芥川賞の候補作にも選ばれている北条裕子さん(32)の「美しい顔」について、講談社は29日、作品を掲載した「群像」6月号で主要な参考文献を明記しなかったと、7月6日に発売する「群像」8月号でおわびを掲載することを明らかにした。

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 同作は、東日本大震災で被災した女子高校生の視点で描いた短編。同社によると、震災直後の遺体安置所などの被災地の様子を描く際、石井光太さんのルポルタージュ「遺体」(新潮社)に大きな示唆を受けていたが、「文献の扱いに配慮を欠き、類似した表現が生じてしまった」としている。ほかに「3・11 慟哭(どうこく)の記録」(金菱清編、新曜社)など計5作を参考にしていた。

 北条さんは5月の新人賞贈呈式で、「被災地に行ったことは一度もありません。遠い東京からただ見ているだけ、その私自身への憤りでした」と執筆の動機を話していた。

 参考文献は以下の通り。「3・11 慟哭(どうこく)の記録」(金菱清編/東北学院大学震災の記録プロジェクト、新曜社)▽「メディアが震えた テレビ・ラジオと東日本大震災」(丹羽美之、藤田真文編、東京大学出版会)▽「ふたたび、ここから 東日本大震災石巻の人たちの50日間」(池上正樹著、ポプラ社)▽文芸春秋 2011年8月臨時増刊号「つなみ 被災地のこども80人の作文集」(森健取材構成、文芸春秋
https://www.asahi.com/articles/ASL6Y3H7LL6YUCVL005.html


新潮社「修正を含め対応要望」 芥川賞候補作の類似表現
2018年6月29日15時14分


 5月に群像新人文学賞を受け、7月に選考会のある芥川賞の候補作にも選ばれている北条裕子さん(32)の「美しい顔」が参考文献を明記していなかった問題で、参考文献だったと発表された「遺体」を書いたノンフィクション作家の石井光太さんと出版元の新潮社が29日、コメントを発表した。

 石井さんは北条さんと講談社から謝罪文を受け取ったとし、「東日本大震災が起きた直後から現地に入り、遺体安置所を中心として多くの被災者の話を聞き、それぞれの方の許諾をいただいた上で、まとめたのが『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社)です。北条裕子氏、講談社には、当時取材をさせていただいた被災者の方々も含め、誠意ある対応を望んでいます」とコメントした。

 新潮社ノンフィクション編集部は「複数の類似箇所が生じていることについては、単に参考文献として記載して解決する問題ではないと考えています。北条氏、講談社には、類似箇所の修正を含め、引き続き誠意ある対応を求めています」とコメントした。

 「美しい顔」は、東日本大震災で被災した女子高校生の視点で描いた短編。講談社によると、震災直後の遺体安置所などの被災地の様子を描く際、石井さんの「遺体」に大きな示唆を受けていたが、「文献の扱いに配慮を欠き、類似した表現が生じてしまった」としている。

「遺体」には「床に敷かれたブルーシートには、二十体以上の遺体が蓑虫(みのむし)のように毛布にくるまれ一列に並んでいた」との記述がある。一方で、「美しい人」には「すべてが大きなミノ虫みたいになってごろごろしているのだけれどすべてがピタっと静止して一列にきれいに並んでいる」との表現がある。

 半田正夫・青山学院大名誉教授(著作権法)は「事実関係や描写を取り込んではいるが、表現そのものを変えているため著作権の侵害とは言いにくい。ただ、参考文献は最初から明示すべきだった」と話す。
https://www.asahi.com/articles/ASL6Y4J9HL6YUCVL00K.html

剽窃した(とされる)側、剽窃された(とされる)側のどちらのソースも読んでいないので、何ともいえないな。一つ知りたいのは、「類似表現」が小説の核心的な部分なのか周辺的な部分なのかということ。新潮社側が要求するように「類似箇所の修正」をしたら、小説が小説として崩れて別のものに変ってしまうのか、それとも「修正」後も同じ小説でありつづけるのか。
さて、石井光太氏の作品は『物乞う仏陀*1しか読んでいないのだが、それはそれで凄い読書体験だった。
物乞う仏陀 (文春文庫)

物乞う仏陀 (文春文庫)