大坂から京都へ

山折哲雄*1「大阪なおみ選手の現在」『機』(藤原書店)384、p.25、2024


曰く、


いつごろか私は、テニス界の大坂なおみ選手*2に注目するようになっていた。そのうち、京都ちあき、といった名の選手があらわれると面白いな、と思うようになった。というのもかねて、ちあきなおみさん*3の演歌にぞっこん惚れこんでいたからだった。

すくないマスコミ報道から私が知りえたことは、なおみ選手の父親は西半球のカリブ海域に存在するハイチ国(島)の出身であり、来日して北海道で日本人の母親と出会い結婚している、そのあいだに生まれた二人姉妹の一人、ということぐらいだった。もちろん「ハイチ」という国がどういう歴史と文化をもつところかも知らなかった。
ところが昨年の八月、街の本屋で浜忠雄氏の『ハイチ革命の世界史――奴隷たちがきりひらいた近代』(岩波新書)をみつけてびっくりしたのだ。何とそこには「ヘーゲル弁証法」をめぐる刺激的な問題提起が論じられていたのである。