聞く/聞かれる

清水有香*1「弱み共有 つながりの回復」『毎日新聞』2023年1月14日


『聞く技術 聞いてもらう技術』の著者、東畑開人氏*2へのインタヴュー記事。


人の話を「聞く」。ただそれだけのことが難しい時代だという。なぜか。それは聞く人自身が話を「聞いてもらえていないから」。そうシンプルに説き、「聞く」をめぐるケアの本質に迫る。
著者は臨床心理士。「聞く」が不全に陥っている社会的な背景には、徹底した個人主義があると考える。ここ20年で浸透した新自由主義はリスクと責任を個人に負わせ、「社会をあまりにバラバラにした」。個人主義の世界とは「お互いのことをよく知らない世界」だ。「それは苦しい時に、周りから『大丈夫?』と思われない社会です。個人に立ち入るのは失礼だという倫理があり、それはそれで大事なんでしょうけど、あまりにコミュニティーの力が弱ってしまいます」。
コミュニティーのつながりには確かに誰かを排除したり縛ったりする面もある。それでも「互いのことを知っているのは、それなりに大きい力があった」。その力は「つながりの価値」であり、臨床の現場でも年々強く感じると話す。「クライアントが回復していくのは周りに理解者が現れる時。つながりが回復されていくことによって人の心は回復していく」。しかもそのつながりは受動的なものだという。周りが心配してくれていると分かった時、つまり「すでにあったつながりの中に自分がいたことに気づいた時、心は変わり始める。日常のつながりをどう回復していくかが僕の最近のテーマです」。