清水有香*1「〈今、ここ〉からの自由」『毎日新聞』2021年1月16日
石井遊佳さんへのインタヴュー記事。『象牛』を巡って。
表題作は(『百年泥』の舞台でもあった)印度のヴァーラーナシーが舞台。「象牛」という「謎の生き物」が登場する。そして、
2018年のデビュー作「百年泥」*2芥川賞受賞後、第1作。川にまつわる2編を収める。「流れそのものである川は固定的な実体など存在しない世界を象徴しうる。いろんなイメージをまとうことのできる川は魅力的なモチーフ」と語る。
自身の原風景である大阪・淀川河岸の物語を描いた「星曝し」では、七夕の風物詩として家族のメンバーを入れ替える奇習が行なわれる。「人間は根源的に受動的な存在。自分の意思で生まれるわけでもなく、家族はその象徴です」
「謎の生き物」の登場ということだと、小川洋子『ブラフマンの埋葬』を最近読んでいたのだった。但し、印度は全然出てこない。
両作に響き合うのは、たまたま選ばれた〈今、ここ〉から自由になり、無数の〈かもしれない〉が押し合いへし合いする虚実混交の世界観だ。「現実への懐疑は、私が小説を書き続けていく上で、根本的な問題意識として持ち続けるだろうと思う」(後略)