「命の感触」

清水有香*1「野山で向き合った「命の感触」」『毎日新聞』2020年12月6日


「創作の原点」を巡る、絵本作家の田島征三氏へのインタヴュー記事;


田島征三さん(80)*2が筆を握れば、バッタは自由に空を飛び、大地は高らかに歌い出す。骨太のダイナミックな筆致に宿る生命の輝き。戦後間もない食糧難の時代に自然豊かな南国土佐で少年期を過ごし、「命あるものと向き合う生活」を送った。その手に渦巻く「命の感触」が今も創作へと突き動かす。

1940年、堺市生まれ。敗戦後すぐに高知へ移り住んだ。
「夏は川、冬は山で狩猟生活みたいに魚や鳥をつかまえて食べていた。遊んでいるようだけどスリリングな仕事でね。仕留める時の命の激しい動きが今も体の中に残っていて、僕の作品ではその力強さが無意識に筆先から出ているのかもしれない」
征三の双子の弟である田島征彦氏も絵本作家なのだが、土佐の山の中での「少年期」は、征三・征彦本人も出演している東陽一*3の映画『絵の中のぼくの村』で再現されているか。田島征三で衝撃的だったのは、新潟県十日町市の廃校をそのままアート作品(「空間絵本」)にしてしまった「絵本と木の実の美術館」*4。また、この「美術館」とも関係する、アーサー・ビナードがテクストを書いた絵本『わたしの森に』も奇麗事ではない「命の感触」に満ちている。