「数学」と「環境問題」

清水有香*1「危機から希望を見いだす」『毎日新聞』2021年11月20日


森田真生*2『僕たちはどう生きるか』を巡って。


気候変動という「不気味な時代」にあって、データに基づく「正しさ」を叫び、ただ危機をあおることに疑問を呈する。環境問題は「まじめに受け取れば受け取るほど心が壊れてしまう」と考えるからだ。「環境が破壊されていく時代に心を壊さず、しかも感じることをやめないで生きるために、新しい希望を紡いでいく必要がある」。そう考えた時、気候変動を「人間の新たな感性が生まれる一つの契機」として受け止める環境哲学者ティモシー・モートン氏の思想にヒントを得た。

本書のキーワードに「弱さ」と「精緻さ」がある。「自分だけでは立てない」弱さを受け入れ、生態系の複雑な網の中に事故を編み直すことは「一度きりの現在を精緻に捉えること」につながる。「現在を精緻につかむとは今、与えられているものに感動し、深く感謝するということです」、目の前の自然に愛着が持てれば、それを大事にしようとする心も育まれる。それが感性の更新の一つでもある。
ただ生き延びるのではなく、いきいきとした生をどう描くか。「人間として生まれた以上は人間として生きることに希望を感じられる生き方を編み出したい」。正しさから精緻さ、強さから弱さ、危機から希望へ。いくつものの転回をはらむ思考の軌跡は、遠い未来を嘆くより「今、ここ」から共に考えようと手を差し出す。