「違憲」ではない(大阪地裁)

承前*1

朝日新聞』の記事;


手を握り合い、ぼうぜんとする原告も 同性カップルの訴え退ける判決
松浦祥子、浪間新太2022年6月20日 15時14分


 同性婚が認められないのは憲法に違反するとして、同性カップル3組が国を訴えた裁判。原告や代理人弁護士は20日午後1時30分ごろ、判決が言い渡される大阪地裁(大阪市北区)に入った。

 香川県三豊市の田中昭全さん(44)と川田有希さん(37)、京都市の坂田麻智さん(43)とテレサさん(39)は、「結婚の自由をすべての人に」と書かれた横断幕を手にし、緊張した面持ち。駆けつけた支援者から、「がんばって」「いってらっしゃい」というかけ声と拍手があがると、少し笑顔を見せ、手を振ってこたえた。

 予定通り午後2時に開廷すると、土井文美(ふみ)裁判長は「主文 原告の請求をいずれも棄却する」と述べて、原告側の主張を退けた。

 その後、判断した理由の説明に移った。原告側にとっては、請求は棄却されても、裁判所が同性婚を認めていない現状を「憲法違反」と判断するかどうかも焦点だ。

 しかし、原告側が主張した「婚姻の自由」を定めた憲法24条、「法の下の平等」を定めた憲法14条にも「違反しているとは認められない」と述べると、満席の傍聴席からはため息がもれた。「違憲」と判断した昨年3月の札幌地裁判決*2とは異なる判断となり、原告席の川田さんは肩を落とし、机の下で手を握り合って聞いていた田中さんはぼうぜんとした表情だった。坂田麻智さん、テレサさんは困惑した様子で顔を見合わせた。(松浦祥子、浪間新太)
https://www.asahi.com/articles/ASQ6N4VT8Q6LPTIL006.html

たしかに不当で反動的な判決なのだが、「要旨」*3を見ると、そのロジックはちょっと複雑であることがわかる。

 「両性の合意」「夫婦」という同項の文言や(戦後の)民法改正で同性婚について議論された形跡がないことに照らすと、同項のいう婚姻の自由は異性婚だけに及ぶ。本件諸規定は同項に反するとは言えない。

 もっとも、同項の趣旨は明治民法下の封建的な家制度を否定し、個人の尊厳の観点から婚姻が当事者間の合意だけに委ねられると明らかにした点にある。同性愛者にも異性愛者と同様の婚姻やこれに準ずる制度を認めることは、憲法の普遍的価値に沿う。同項がこうした制度を作ることを禁じているとは解せない。

憲法24条が同性婚姻を禁止するものではないということは認めている。しかし、

 婚姻で受けられる利益には相続や財産分与といった経済的利益だけでなく、カップルとして公に認知される利益もある。重要な人格的利益で、同性愛者にも認められる。24条2項は国会の合理的な立法裁量に制度の構築を一次的に委ねつつ、このような利益にも配慮した法の制定を求める。

 本件諸規定のもと、同性愛者は望み通りに婚姻できないという重大な影響が生じている。契約や遺言など別の制度で同等の効果を得られても、異性婚で得られる法的効果には及ばず、公認の利益も満たされない。

 一方で、人類には男女が共同生活して子孫を残してきた歴史・伝統があり、自然で基礎的な集団単位として識別・公示する機能を持たせて法的保護を与える婚姻制度には合理性がある。公認の利益を実現するためには類似の承認制度を作ることも可能で、本件諸規定はそれを妨げていない。

 個人の尊厳の観点から同性カップルの公認の利益も実現させるべきだが、どのような法的保護を与えるかは伝統や国民感情、各時代の夫婦や親子関係の規律を見据え、民主的過程で決めるべきだ。近年の調査では法的保護を認めるべきだという回答が増え、多数決原理による制度構築に期待できないわけではない。

 同性婚の法的措置がないことが将来違憲となる可能性があっても、現段階で司法が積極的に違憲と宣言すべきだとはいえず、立法裁量の逸脱は認められない。

こちらの方は支離滅裂な印象を受ける。最も酷いのは、ユニヴァーサルな婚姻の自由を求める主張が全く理解されていないことだ。例えば、20世紀の特に前半において、女性参政権というのは重要な政治的イッシューだったわけだけど、それに対して、人類には男性が独占的に政治に参加してきた「歴史・伝統」があり、政治参加の男性独占には「合理性」があり、女性の「公認の利益を実現するため」に「類似」の政治参加制度を作ることも可能だというような司法判断が出たとすれば、何と頓珍漢な判断なんだ! とういうこことになる。これを人種に置き換えば、さらにアクチュアルになるだろう。そうすると、「類似の承認制度を作ることも可能」云々というのは、かつてアパルトヘイト制度を正当化していたレイシズムのロジックに接近するということもわかる。また、これとは別に、1つの制度の下に統合するのではなく「類似の承認制度」を並立させることによって生ずる、法制度の不必要な複雑化による制度の関係者の不利益という論点も出てくるのでは?
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松岡宗嗣*4「裁判所が判断から逃げ、差別に加担「結婚の自由をすべての人に訴訟」大阪地裁判決の問題点」https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuokasoshi/20220621-00301866