「カムバックを果たしたセレブ」 - Living, Loving, Thinking, Again

作者:ポール・ベンジャミン
新潮社

ポール・ベンジャミン『スクイズ・プレイ』（田口俊樹訳）。
私立探偵「マックス・クライン」（「私」）による依頼人「ジョージ・チャップマン」についての語り。チャップマンは元大リーガーだったが、交通事故のために左脚を切断し、選手生命を断たれた。

（前略）アメリカがただのセレブ以上に崇拝するものがあるとすれば、それはカムバックを果たしたセレブだ。才能ある者や美しい者は常に賛美される。が、彼らはわれわれとはいささかかけ離れた存在だ。リアルとは言えない世界の住人だ。が、悲劇はスターを人間にする。われわれと変わらない傷つきやすい存在に変える。そんな存在が自らに役を割り振り、ステージにまた戻ってくると、われわれはその者のための特別な場所を心に用意する。チャップマンはそうしたわれわれの心を捕らえるこつを心得ていた。それは誰も否定できない。失った脚を新たなキャリアに生かすことができる人間はそう多くはいない。が、彼の場合、カムバックしたときからもうすでにライムライトの中にいた。（後略）（pp.10-11）

ポール・ベンジャミンとは実はポール・オースター *1。