「書評」から外れて - Living, Loving, Thinking, Again

『毎日新聞』の書評から抜書き。

佐藤優 *1「古典古代の暮らし　通説逆転の挑発」『毎日新聞』2019年２月23日

弓削達『地中海世界　ギリシア・ローマの歴史』の書評。
この本は、古代希臘・羅馬を「古典古代」としてではなく「地中海世界」として記述するもの。最後に、この本とは直接関係ない佐藤氏の思いつきがあって興味深いので、写しておく；

（前略）近未来にビッグデータをアルゴリズムで計算するＡＩ（人工知能）技術が発達すると、現在、事務職の人々の仕事がかなり失われると予測されている。これはあらたな奴隷制の到来なのかもしれない。ただし、社会機能的にはＡＩ技術を駆使して価値と富をつくり出す人々が奴隷で、新しい時代に適応した仕事を見いだすことができず、生活に必要な資金（ベーシックインカム）を受領する人々が労働から解放された自由民になる。しかし、古代の奴隷制と逆に、奴隷に富と権力が集中する。貧しいが時間の余裕がある自由民から新しい文化が生まれるかもしれない。

三浦雅士 *2「歴史に照らして分かる中国の現在」『毎日新聞』2019年２月23日

丸橋充拓『江南の発展　南宋まで　中国の歴史②』の書評。実はこの本、既に読了しているのだが、それはともかくとして、三浦氏曰く、

以前、小西甚一 *3の大著『日本文藝史』を通読して、日本古典文化にとって決定的に重大だったのは、中国は中国でもほとんど江南に限るという主張を読んで驚いたことがある。日本の漢字の読みは古く呉音すなわち江南の方言。その後も影響を受けたのは魏晋南北朝の南朝すなわち六朝の文化であり、五代十国後の宋それもとりわけ南宋の文化であって、六朝南宋ともに江南に属する。にもかかわらず江南は呉越の蛮地として退けられ、中国史はただ中原にあると言わんばかりの記述が圧倒的に多いのはなぜか。司馬遷『史記』の陰謀という説さえあるほどだが、そう言われてもしかたないほど、「世界史」「中国史」の講座やシリーズの巻名に「江南」を表題にしたものは皆無に近い。

江南の発展: 南宋まで (岩波新書)

作者:充拓, 丸橋
発売日: 2020/01/23
メディア: 新書

加藤陽子「史料駆使　真相描く迫力」『毎日新聞』2019年２月23日

広田照幸編『歴史としての日教組』の書評。
曰く、

読みながら、書かれた内容の持つ、あまりの迫力にたじろぎ、本を持つ手が震えた。このような読書体験はめったにない。本書のこの迫力はどこから来るのか。著者らは、未公開だった日教組所蔵史料を全面的に用いている。日教組は複数の単位組合をゆるく結集した連合体だったので、決議機関である大会までの議決の過程が重視される。そのような特徴を持つ組織が、各級会議の逐次発言録、役員選挙史料、対決動議の投票数等、意思決定を辿れる全史料を持ち、それを研究者が活用できたらどうなるか。知のスパークが始まるに決まっている。

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090902/1251857742 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090908/1252429768 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141004/1412363750 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180206/1517893783 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180311/1520786527

*3:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20070612/1181625292 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180707/1530979964 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/04/17/105944