保阪/西部

佐藤優保阪正康「時代に抵抗するための遺産  岩波文庫と私 3」(in 『岩波文庫と私』*1、pp.22-32)


最初の部分を抜き書き;


保阪 私の人生と読書体験というのは実に単純で、(略)私は岩波文庫で確かに育ったようなところがあります。星一つ四〇円だったと思うけれども、二つあると八〇円だとか……。
佐藤 まだ黒星の時代ですね。
保阪 黒星だった。親から五〇〇円くらいの小遣いをもらう時代だから、何冊買えるのかと言っていましたけれども、今度『岩波文庫総目録』を見ていて、小学校の終わりぐらいから読んだのは小説ですね。芥川とか武者小路とか、そして漱石、鷗外と入っていった。田山花袋の『蒲団』なんか読んで、ちょっと広がりが出てくる。札幌市の郊外に住んでいて、中学二年の時に三年生で隣の町から通っているのが西部邁*2だったんです。
佐藤 そうですか。
保阪 それで、彼と朝晩一緒に通ったんです。朝と帰りが一緒だから話をしたら、彼が何でも教えてくれるんですね。ある時、「おまえ、人間とサルの違いを知ってるか?」と聞かれたから、「毛が三本足りないことなんじゃないか」と言ったら、「違うよ。生産手段を持っているか持っていないかだよ」と言ったんです。それで「こういう本を読まきゃだめだよ」という話になって、『空想より科学へ』など社会科学的な基礎分権をかなり読むようになった。あまり分からなかったけれど……。高校時代に厭世的な気分になった時にショーペンハウエルをやけに読んで、『自殺について』など読みました。大学では、当時六〇年安保で学生運動が苛烈になっていて、奥もその種の本はかなり読みました。レーニンの『帝国主義*3とかね。でも僕にはどうも馴染めなくて、結局最終的に絞ってきたのは社会的な、例えば横山源之助の『日本の下層社会』とか、民俗学系の書に興味を持ちました。それと諧謔的に見るテオプラストス『人さまざま』。だから僕は内在的に読んだ本は限られていて、他動的に刺激を受けて読んだ本から得たものが多いというのが僕の読書歴かなと思います。(pp.22-23)
空想より科学へ (岩波文庫 白 128-7)

空想より科学へ (岩波文庫 白 128-7)

帝国主義―資本主義の最高の段階としての (岩波文庫 白 134-1)

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日本の下層社会 (岩波文庫 青 109-1)

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