「労働」と「ケアリング」

伊藤亜紗*1「話題の本」『毎日新聞』2020年9月12日


デヴィッド・グレーバー*2『ブルシット・ジョブ』について。


ハッとさせられたのは、あらゆる労働は本質的にケアリングだ、という指摘である。橋を作る仕事だって、その根本にあるのは川を横断したい人へのケアだ。ケアは数値化できず、生産性には結びつかない。私たちがコロナ禍で学んだのは、このケアの部分こそ機械によって代替することができず、また休むことも許されないという事実だった。
本稿執筆中に著者の訃報が飛び込んできた。人間らしく働き、ケアしあいながら社会をつくるとはどういうことか。日常が完全に元に戻る前に、立ち止まって考えたい。