顕す言葉と隠す言葉(梯久美子)

梯久美子*1「言葉が隠すものを見抜く」『毎日新聞』2020年11月22日



言葉によってあきらかにされるものと、隠されるものがある。実態にそぐわない名前にはどんな意図があるのか、見抜く目を持ちたい。
という。

(前略)家族の世話や介護を行う若い人たちが増えていることを知ったのは、ヤングケアラーという言葉を目にするようになった、ここ1年くらいのことである。
ヤングケアラーとは、普通なら大人が担うと考えられている家族のケアを行っている子供や若者のことだ。介護だけでなく、病気や障害をもつ家族の世話をしたり、きょうだいの面倒を見たり、家事を担ったりとさまざまな役割を負う。
ヤングケアラーという呼び名は生硬な感じがあるが、その分インパクトがある。おそらくこれから広まっていく言葉だろう。
それまで見えていなかった問題が、名付けられることで顕在化することがある。セクハラやパワハラ、DVなどもそうだった。名前がつくことで、該当する事例が次々と挙がってきて問題が共有される。実態が調査されて、解決策が検討されるようになるのだ。
逆に隠蔽する言葉としての「技能実習生」*2

名付けることが問題を顕在化させると書いたが、それが実態を覆い隠すために使われることもある。技能実習生という名称はまさにそうだ。名目は開発途上国への技術移転で、その趣旨を満たしている職場もあるが、実習とはとてもいえない低賃金の労働が横行している。
制度が適正に実施されるよう国が責任を持って監督すべきだが、運用は民間に任され、実習生のケアはおろか、人権を守る手立ても政府は講じていない。
私たちの社会はすでに外国人労働者なしには立ち行かない。だが、移民という言葉を使いたくない国は、正式に就労できる在留資格を大幅に制限し、さまざまな名目で労働力を確保しようとしてきた。
技能実習生もその一つで、実質は労働者であるにもかかわらず、研修や実習という言葉を用いて、「人」ではなく「労働力」のみを得ようとしている。
梯さんはETV特集の『調査ドキュメント 外国人技能実習制度を追う』に言及しているのだが、冒頭のヴェトナム人技能実習生が食べるために蛙を取るシーンはやはり衝撃的だった。たしか、拙blogで「ウシガエル」について無駄口を叩いたちょっと後だった*3