「低賃金」など

日本における中国人「研修生」(実は低賃金労働者)という話はhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060817/1155831465http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071105/1194258899で言及したのだが。
さて、『毎日』の記事;


中国人研修:時給350円、トイレ分は休憩減 5女性申告

2009年10月27日 14時30分 更新:10月27日 14時45分

 長崎県島原半島内の女性下着縫製会社で働く中国人女性5人が、時給350〜400円で残業させられているなどとして、島原労働基準監督署労働基準法違反の申告をした。「トイレに行くと休憩時間から引かれた」などとも訴えている。申告を受け、同労基署は労働実態調査に乗り出した。同社の社長(62)は「労基署が調べているのでコメントできない」としている。

 外国人研修・技能実習制度により、06年12月〜07年12月に入国した21〜27歳の中国人女性。今月21日に申告した。

 申告などによると、同社は時給350〜400円で多い月は1カ月に209時間、年間約2000時間の残業をさせたとしている。労基法は時間外勤務について賃金の1.25〜1.6倍の割り増しを定めているが、同県の最低賃金(現在629円)も大幅に下回っていると主張している。

 女性らによると、繁忙期は午前8時〜午前0時ごろまで働き、休日が1カ月に1日もなかった月もあったとしている。残業代を除く1カ月の給料は、県の最低賃金で計算する契約。1カ月平均173時間で約11万円になるが、同社は「通帳に振り込んでいる」などとして明細を出さず、通帳やパスポートも預かられていたという。また、女性らが勤務時間中にトイレに行く際は、社長が時計で時間を計り、その分を休憩時間から差し引かれたという。

 女性らの労働状況を知った関係者が9月上旬、熊本県労連を通じて長崎県労連に連絡。女性らは団体交渉での解決を目指し、県労連の労働組合に加入し、会社側との団交を続けている。この結果、通帳などは返されたが、賃金についての進展はみられないという。

 女性らは「希望を持って日本に来たが、私たちは人間として扱われていない。実習生のうち1人は『給料が少ない』と言ったら中国に帰国させられた。私たちは適正な環境で3年間、日本で働きたい」と訴えた。

 同制度を巡っては、専門家らから「労働搾取」が相次いでいると批判の声が出ており、政府は今年7月に入管法を改正したほか、来年7月の改正法施行に合わせ、更なる制度見直しを進めている。【阿部弘賢】
http://mainichi.jp/select/today/news/20091027k0000e040080000c.html

これに対して、「技能研修生であっても最低限度の賃金は保証すべき」という意見あり*1。そこで述べられていることは基本的に共感できる。しかし、そもそも「外国人研修・技能実習制度」が問題なのでは? つまり、どちらの側も「研修・技能実習」だということを信じてはいないだろう。これは「研修・技能実習」の名の下で外国人労働者を廉価で雇い入れるための隠れ蓑になっているわけだ。こういう〈大人の事情〉めいた偽善は止めて、堂々と労働市場の開放を議論すべきなのではないか。
また、この「島原半島内の女性下着縫製会社」が「悪辣」だというのはその通りなのだろうけど、この会社に「きついペナルティ」を加えることだけではすまないだろう。また、「低賃金を前提にした産業は日本から出て行け」*2というだけでも。上の『毎日』の記事ではこの会社の資本金や従業員規模はわからないのだが、多分小企業で、生産連鎖のかなり川下に位置しているんじゃないかということはけっこう容易く想像できるだろう。搾取というのは上の方からアウトソーシングされてくるものだということに留意しなければならない。この企業が「悪辣」な搾取をしなければならないのは生産連鎖の上位の元請けなどからの締め付けが厳しいからだろう。ただ、大企業は極悪というのもフェアではないだろう。勿論、極悪なのも多いのだろうけど。大企業は大企業で、消費者様が低価格商品をお望みになられているのですから、というだろう。これはたんなる〈言い訳〉以上の事実性を持っている*3。かくして、kechak氏が指摘する「デフレスパイラル」が亢進してゆくわけだ。これは構造的な問題なので、その部分部分を攻めても(責めても)仕方がないということはあるのだけれど、〈消費者〉に対する批判が弱いというのはどういうわけ? 少なくとも、俗情に媚びて、低価格化を無批判的にマンセーするということはやめた方がいい。「第三のビール」とか「発泡酒」とかは正しく「代用麦酒」或いは麦酒擬きと呼ぶこと*4。それから、「デフレスパイラル」の効果について別の側面から言えば、高級なものを消費することによって培われるセンスとか趣味といった文化資本は全体的には脆弱化しつつ、その格差が拡がっていくだろう。それは「スパイラル」に対してポジティヴにフィードバックする。

See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091002/1254507360