蟹な話

黒川裕生「カニに取り憑かれた70歳女性が前代未聞のカニ本を出版 大学院でカニ文化を研究」https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191020-11001363-maidonans-life


広尾克子『カニという道楽 ズワイガニと日本人の物語』という本の紹介。


広尾さんは大学卒業後、旅行会社で29年間勤務。主に海外旅行の企画を担当していたため、仕事ではカニとの縁は全くなかったという。一方プライベートでは、友人たちと山陰地方までカニを食べに行く旅行を40年以上、毎年続けている。

そんな広尾さんに転機が訪れたのは約10年前。ある老漁師から「昔はカニなんて価値がなくて、いくらでも浜に転がっていた」と聞かされたのだ。興味を覚え、自分で調べようとしたところ、これまでカニの文化や歴史について詳しく書かれた本がないことに気づいたという。広尾さんは「ならば自分が」と一念発起。2013年に関西学院大学大学院の社会学科研究科に入学し、カニ食の社会史やカニツーリズムの研究に没頭してきた。本書は、その成果を一般向けにやわらかく書いたものだ。

本は全5章で構成。ズワイガニの生態や地域ごとの名前の違い(松葉ガニ、越前ガニなど)の簡単な解説に始まり、都市部にカニ食を広めた「かに道楽」の功績、JRの「かにカニエクスプレス」に代表されるカニ旅行の歴史、カニ産地のそれぞれの地域性などについて、広尾さんが実際に足で稼いだ情報を基に執筆している。現地で見聞きしたことも随所に反映しており、カニの選別や浜ごとに色が異なるタグの実情、漁師の後継者不足のためインドネシア人の技能実習生に頼らざるを得ない現実などを指摘した箇所は読み応えがある。

ここで「カニ」という一般的な呼称で指示されているのは「ズワイガニ*1のこと。でも、「ある老漁師から「昔はカニなんて価値がなくて、いくらでも浜に転がっていた」と聞かされた」というのを読んで、上海蟹(大閘蟹)*2について、あんなのそもそも貧民の食べ物だったのに、田舎者はどうして大騒ぎするのかね! と言っていた上海人を思い出した。