書評メモ


毎日新聞』の書評からのメモ。

中島岳志*1「ヤクザ、政治家との癒着と離反」『毎日新聞』2020年1月26日


笹山敬輔『興行師列伝』の書評。
最後の部分;


興行師、ヤクザ、政治家……。本書を読むと、この三者の癒着と離反が、日本の近代芸能史を構成していく様子がよくわかる。昨年、吉本興業の「闇営業」が大きな社会問題になったが*2、芸能界と反社会勢力の関係は一朝一夕ではない。近年の吉本興業が政権に接近し、政府や自治体のプロジェクトに参入している点も話題になったが、これにも歴史的な背景がある。時宜にかなった一冊だ。

岩間陽子「「強い家父長」が支配する中国社会」『毎日新聞』2020年1月26日


益尾知佐子『中国の行動原理』の書評。


(前略)本書は、文化人類学的アプローチを用いて、革命以降の中国の政治を説明してみせる。パワーポリティクスとは一味違い、人間社会の在り方から、外交に迫っている。
分析枠組みには、フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド*3が示した、家族の類型が使われる。親子関係が権威的か自由的か、相続にあたって兄弟間が平等か不平等か、近親婚(いとこ婚)がどの程度許容されるかがメルクマールとなり、世界中の家族の形態が七つに分類される。中国の場合、親子関係は権威的、兄弟間は平等、近親婚は厳しく禁じられており、「外婚制共同体家族」と呼ばれる類型に分類される。
この類型の社会では、父親は家族に対して強い権威を持つ。息子たちは平等に扱われ結婚後も親と同居し、家族は横に大きく広がる共同体となる。権威主義家族に属する日本では、権威は多くの人物に分散し、タテ型になる組織は一丸となって繁栄をめざす。しかし、中国では家父長一人に絶対的権威が集中し、組織はフラットであり、ボスと部下は基本的に一対一の権威関係で結ばれている。部下たちの横の関係はフラットで、互いに独立しており、余り協力はせず、むしろ潜在的競争関係にある。
岩間さんは、この本を「読みながら、中根千枝氏の『タテ社会の人間関係』を思い出していた」という。
タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)

タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)