さようならコロンブス

「ミセス新曲MVが炎上「差別的だ」、コロンブスが類人猿に人力車引かせる内容…コカ・コーラのキャンペーンソング」https://www.bengo4.com/c_16/n_17653/
安田聡子「Mrs. GREEN APPLEコロンブス」のMV、公開停止に。「歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現が含まれていた」」https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_666a88dce4b076909e1d20fe
安田聡子「 Mrs. GREEN APPLEコロンブス」のMVが物議。「コロンブス」は一体何をした人物なのか、知っておきたい歴史と評価の変遷」https://www.huffingtonpost.jp/entry/mrs-green-apple-columbus_jp_666a429be4b01bc0ceee4f57
Kelly Ng*1 “Japanese band pulls music video with ape-like natives” https://www.bbc.com/news/articles/czvv97pxv9xo


Mrs. GREEN APPLE*2 というバンド、私は殆ど聴いたことがないけれど、特にティーンエイジャーの間では大人気のようだ。
さて、今回の騒動で感じたのは、これって21世紀の話なのか! ということだった。30年前の1992年は所謂コロンブスアメリカ発見500周年だったけれど、その時既にコロンブスは偉人なんかではなくてやばい奴だというコンセンサスが形成されていた筈だと思っていたのだ。500年前どころか30年前の歴史も忘却されているのか! その1992/1492に因んで制作されたリドリー・スコットの『1492』は賛美ではなく批判的な伝記映画だったようだけど、遺憾ながら未見。ただ、ヴァンゲリスによるサントラ*3は一時愛聴していたことがある。まあ、コロンブス(及びその一味)の悪行というのは、コロンブスが到達したカリブ海の島々、例えば(現在の)キューバやジャマイカに先住民(インディオ)がいないことからも明かだろう。この人たちはコロンブス一味に虐殺されたり、彼らが持ち込んだウィルスに感染したりして、滅んでしまった。その中のひとつであるカリブ族は今は海に名前を留めているのみである。ただ、コロンブスが悪人だというのは否定できないのだが、コロンブスをただの強欲な殖民地主義者に還元してしまうのは従来の偉人コロンブスの裏返しにすぎず、歴史認識としては浅いといえるだろう。コロンブスを巡るこうした言説の地平を相対化したのは40年以上前に上梓された増田義郎の『コロンブス』。増田によると、コロンブスの「インディアス」遠征の動機として、当時逼迫した終末論を唱えていたフランチェスコ会の在俗会員だったコロンブスには世界が終わる前に聖地イェルサレムを(基督教徒が)奪還するとともに、世界の異教徒たち*4を基督教に改宗させることに執着していたということがある。コロンブスがインディアスに強く求めていた黄金も聖地イェルサレム再建のための資金源と目されていたのだった。なお、先住民の「改宗」を目的とした西班牙のアメリカ大陸侵略を巡っては、一昨年約50年ぶりに重版された*5ルイス・ハンケの『アリストテレスアメリカ・インディアン』も参照のこと。
タイトルはフィリップ・ロスの小説*6から。「コロンブス」は英語式には「コロンバス」。