「心の学問」

持田叙子*1「『世界インフレの謎』渡辺努著」『毎日新聞』2023年1月21日


持田さんは近代日本文学の研究者。
渡辺努『世界インフレの謎』によると、コロナ禍後の世界的なインフレの「主因はウイルスへの番人の「恐怖心」! これが「密」を回避させ、労働・消費・企業に史上初の変化を引き起こした」。


私たちは労働者で消費者。二つのバランスで生きる。情報通信技術の進化で世界規模の「行動変容」がそこに同時勃発。労働者は現場から「大離職」。消費者は家でモノを買う。中央銀行は需要が原因のインフレには強い。たとえば金利を上げて需要を冷やし、物価を下げる。しかし供給不足が招くインフレには無力。どうも世界は後者に進みつつある。密を避ける「後遺症」は長いというのが著者の説。

(前略)スペイン風邪*2流行時は死者数が莫大だった。しかし「行動変容」は起きなかった。情報共有がないから、との指摘には目が覚める。経済学はお金の学問という通念がある。しかし経済学こそ心の学問なのだと教えられる。