「プラネタリウム」としての小説

持田叙子*1「溶けてつながる和洋の言語と神話」『毎日新聞』2020年7月25日


多和田葉子『星に仄めかされて』*2の書評。


すてきな題名である。ロマンティックである。「ほ」の音が二つあるのも滑りがいい。しかし待てよ、この題名はなかなかの曲者だ。仄めかす、とはそれとなく言うこと。星が話す? そっと何を言う?
「星」も「仄めかす」もふつうの言葉だけれど、二つを組み合わせたとたんに日常を飛び立つ。ふしぎな詩語の力で私たちを見慣れた世界から引き離す冒険ファンタジーである。

ストーリーを必死で追う作品ではない。透明な言葉の光を浴びて私たち読者が能動的にイメージする、画期的な読者参加型の小説である。星がまたたくコンサート会場かプラネタリウムに入る気分で読んでください。