「残されたもの」

関雄輔*1「大衆思想に娯楽メディアが役割」『毎日新聞』2023年4月29日


『残されたものたちの戦後日本表現史』の著者、山本昭宏氏*2へのインタヴュー記事。


世界は「残されたもの」で成り立っている――。その視座に立ち、漫画から映画、演劇まで、戦後の大衆文化作品を読み解いた。
(略)「過去と現在は網の目のようにつながり、誰もがその中で生きている。それなのに、私たちは現在と少し先の未来にしか目を向けなくなってしまっている」。その思いで先人の表現に向き合う。
本書の論の中心を占めるのは、戦争を生き延びた「残された者」たちの表現だ。戦前生まれの水木しげる中沢啓治高畑勲別役実大林宣彦らが、自らの体験をいかに表現に昇華させたのか。戦地の記憶と復員後の貧困生活が水木の世界観を形作り、『はだしのゲン』など中沢の作品には、被爆体験を背景に社会への怒りがにじむ。

ジャーナリズムや学問、「高尚」な芸術だけが経験や記憶を伝えるのではない。漫画などのメディアを通して、私たちは戦争や貧困の体験を間接的に、そして大量に受け取ってきた。「そうした厚い蓄積が、戦後民主主義の基底にあると思うんです」