関雄輔*1「読み始めの違和感 薄れゆく」『毎日新聞』2022年1月8日
小説『教育』の作者、遠野遥へのインタヴュー記事。
(前略)閉鎖的な環境で寄宿生活を送る生徒たちは、「1日3回以上のオーガズム」を推奨する学園の方針の下、日々、自慰と性交に励んでいる。彼らはカードの透視能力の優劣でクラス分けされているが、その能力の意味が作中で説明されることない。
異様な設定だが、「理不尽の程度で言ったら、現実にも近いものはあるのではないでしょうか」と語る。たしかに私たちの暮らす社会にも、意味のない規則や習慣はあふれている。「学校や会社で『正しい』と信じられていることでも、外から見るとわけがわからないケースは少なくない気がします。そうした現実にも存在するゆがみを、アンプにかけて増幅したような作品と言えるかもしれません」
主人公の「私」は真面目で理性的。規範にも忠実で、人付き合いも悪くない。彼の空虚な心も含めて、この小説に居心地の悪さを感じるのは、現実離れした世界だからではなく、現実の合わせ鏡だからだ。
「好きでもない他者とずっと一緒にいないといけないのが苦痛でした」。自身の学校生活をそう振り返るが、勉強は嫌いではなかった。「学校では勉強さえしていれば文句を言われないし、そこで求められる頭の使い方ってすごく限定的。勉強以外のことを考えるよりはるかに楽だと思っていた」と明かす。