公明党の場合

最近日本共産党の党首選出の問題が議論されている。ここで詳しく論じることはしないが、実はそれとかなりそっくりな問題が公明党に関しても指摘されているのだった。
中野毅先生*1の「自公連立政権と創価学会」in 島薗進編『政治と宗教』、pp.93-134)において、公明党の「課題」として4点が指摘されている。


(1)*2何よりも、公明党が一九七〇年に宗教政党から国民政党、つまり普通の政党になったことは、公共空間への参加*3の第一歩だったといえよう。合理的・普遍的言語で政治、経済、外交などの政策を各種議会や集会で論議し、選挙における支持者による支援依頼も政策を掲げて行わざるをえなくなったからである。もっとも政界に進出した当初から、公明党は宗教的言語で政策を議論したことはなく、国家予算の無駄遣いや沖縄の基地問題などを指摘してきたことは知られている。
困難を抱えたのは、むしろ支援する側である。それ以前は創価学会公明党は一体不二とされ、選挙の勝利が「広宣流布の前進」「信心の勝利」という宗教的言語で語られていた。支援に際しても、候補者は信仰の同志、創価学会の幹部だからなどの理由で指示していたが、それでは不十分となり、政策の学習と理解が不可欠となった。それは容易なことではなかったが、そのことでむしろ会員が合理的言語をもって公共空間に参加していく機会となったといえる。
なお創価学会会員が選挙の勝利は信仰の勝利と信じ、語ることはいまもある。宗教団体の成員が政治参加する際にその理由や動機を宗教的言語で語るのは、ある意味、自然のことであろう。しかしそれは(略)「翻訳不能な真理言説」であり、その言語だけでは、他者との討議や支援依頼は困難になったのである。
(2)公明党は二〇二二年九月の第一四回全国党大会で山口那津男代表を再任し(八期目)、二年後の結党六〇年をめざして「大衆とともに」という立党精神を再確認し、庶民の声を代弁する正当であると強調した(『公明新聞』二〇二二年九月二六日)。この姿勢を忘れず、かつ議員の不祥事にも厳しく望み、衆望にあった政治を行って貰いたいが、重要なのは「大衆」「庶民」とは誰であるかという点である。公明党が政権与党として向きあうべき大衆は、総論としては国民全体であるが、焦点を絞れば富裕層や大企業ではなく、現在の格差肥大化社会において困難に直面している人々である。
公明党の支持者が、まさにその代表的社会層であることを指摘した*4。その事実を率直に認識し、その支持層の生活水準の向上、安心・安定化のための総合的かつ構造的施策を打ち出す必要があるのではないだろうか。その層の生活を底上げできれば、中間層全体の底上げにもつながる。それは一時的な対処療法的な施策では駄目であり、かつ自民党新自由主義的政策やアベノミクスなどとは大きく異なる政策であるはずである。公明党の政策が連立相手の自民党と何処が異なるか、明確に打ち出しつつ、政策協議に臨む必要がある。透明性、公開性をより深めていく不可欠の条件である。
(略)
(3)自立した現代政党として、運営方法や機構をさらに合理化・透明化する必要がある。自前の党組織を確立し、地域における日常的な政治活動や広報活動を地道に展開し、選挙時には主体的に支援活動を展開できるようにすべきである。また代表選挙においても複数の候補による政策や路線についての公開の論議を行い、議員のみでなく多くの党員が参加した代表選挙が望ましいことはいうまでもない。さらには各種選挙における候補者選定の透明化も必要であろう。
(4)公明党が発足当初から期待されていた役割の一つに、創価学会を守る防御手段、防御陣だというものがあった。確かに創価学会からすれば、戦後の発展期に、政治家やメディアなどによる批判や攻撃を防ぐ必要はあったであろう。しかし今後は、国や権力者が宗教者や宗教団体の自由な活動を阻害するような全ての事態に対し、「信仰の自由」を政治側から守る旗手として働いて貰いたい。(pp.126-129)

*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20070301/1172726884 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20101220/1292816929 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/04/27/092809 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/11/23/094828 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/01/31/093313 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/04/28/100040 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/03/01/110655

*2:原文は丸囲い数字。

*3:See Eduardo Mendieta & Jonathan Vanantwerpen (eds.) The Power of Religion in the Public Sphere, Columbia University Press, 2011

*4:「松谷満によれば、公明党支持層は、低学歴、自営・ブルーカラー層、低所得層という特徴がいまだ顕著であり、むしろ階層の固定化が生じているという」(p.118)。松谷満「「保守補完」政党としての公明党――支持層における「非保守的」政治志向の抑止効果をめぐって」『アジア太平洋レビュー』6、pp.29-42、2009.