「ものが立つこと」など

高橋咲子*1「作品群が示す「ふくよかさ」」『毎日新聞』2022年1月30日


岩手県立美術館で開かれていた『菅木志雄展 〈もの〉の存在と〈場〉の永遠』*2を巡って。


多摩美大卒業年の69年から最新作までインスタレーションや写真、記録映像など約120点を紹介する展覧会。まず象徴的に鑑賞者を出迎えるのは、69年作の「斜位相」だ。二つの木板が「入」の形に斜めになって支え合い、足元を石で抑えている。建畠さん*3はこの作品を挙げて「『場』への問題意識が既にあったのではないか」と問いかけると、菅さんは「人間がなぜ立っているのかという疑問があったんですよ」と応じた。ものが立つ、横になることもある。これが当たり前とされている。ではその間の斜めの状態は?
「僕にとって一体、どのような状況が最善なのかという問題意識があった」。そんな問いは具現化したのだという。
(略)板や枝に沿うように石を並べて空間をつくる「事位」は80年に発表した作品だが、別の石を用い、新たな場で製作すれば、新たな空間が現れることになる。こうしたスタイルを建畠さんは「非常にふくよか」だと評する。他のもの派*4の作家と比べて「造詣概念をギリギリまで煮詰めるような求道精神ではなく、非常に「フレキシブルに状況を出現させる」と話す。