「原住民女性文学」

高橋咲子*1「台湾原住民女性文学の20年」『毎日新聞』2021年4月11日


「台湾原住民女性文学」をテーマにした、楊翠『少数者は語る』(魚住悦子訳、草風館、全2冊)という本の紹介。


かつてjは為政者から「高砂族」や「山地同胞」などと一方的に名付けられた台湾先住民族。1980年代に始まった民族運動を通じて、「原住民族」(元々居住していた民族)という正式名を勝ち取った。同時に、自分たちの文化を見つめ直す機運も高まる。本書が指す「台湾原住民女性文学」というジャンルもその過程のうえに成り立っている。
始まりは96年。リイキン・ユマ(50年生まれ)とリカラッ・アウー(同69年)の2冊が刊行された年だ。本書によると、以降20年で刊行された単行本は24冊。日本でいうと小説とエッセイにまたがる「散文」やルポルタージュ文学、現代詩が目立つという。
著者は東華大学教授で、漢民族、シラヤ族、パイワン族にルーツがある女性。「舌を失った」(言葉を奪われた)女性が、主体的に筆を執ったことに意味があると指摘する。日本統治期に始まる政治的事件の被害者に聞き取りし、少数者側の語りによる歴史を提示したリイキン。母がパイワン族、父が戦後中国から来た外省人というアウーは、文学を通して複雑に絡むアイデンティティーの結び目を解きほぐそうとした。
台湾原住民文学のアンソロジーとして、『台湾原住民文学選』(草風館)があるという。