承前*1
アミン・マアルーフ『アイデンティティが人を殺す』(小野正嗣訳)。第II章「近代が他者のもとから到来するとき」。
「今日私たちが知っているような世界を作り出した出来事」、「これは西洋で――ほかのどこでもなく西洋で、生じたのです」(p.85)。
(前略)この数世紀のうちに西洋において、以後世界全体が物質的にも知的にも参照することになるひとつの文明が出現したのです。そしてその結果、他のすべての文明はマージナルなものとなり、周縁文化の地位に追いやられ、消滅の危機に瀕しているのです。
(略)確かなのは、そして重要なのは、あるひとつの文明がある日、この地球の手綱を掌中に収めたということなのです。その科学が、〈科学〉となり、その医学が〈医学〉となり、その哲学が〈哲学〉となったのです。この集中化と「標準化」の動きはもう止められません。いやそれどころか、いっぺんにあらゆる領域と大陸に拡大しながら、加速する一方です。(pp.85-86)
「地球規模の文明が開化するにふさわしく成熟した」とは誰のことなのだろうか?
(前略)問題はむしろ、キリスト教のヨーロッパが優位に立ったときに、どうしてほかの文明が衰退しはじめたのか、どうしてほかの文明が、いまでは不可逆的だと思えるような仕方で周縁的なものになってしまったのかなのです。おそらく(略)人類が地球全体を支配できるような技術的手段を手に入れたからです。しかし、支配という語は脇に置いて、むしろこう言っておきましょう。すなわち、人類は、地球規模の文明が開化するにふさわしく成熟したのです。卵は受精する準備ができていて、西ヨーロッパがそれを受精させたのです。
その結果、今日では(略)西洋は至るところに存在しています。ウラジオストックにもシンガポールにもボストンにもダカールにもタシケントにもサンパウロにもヌメアにもエルサレムにもアルジェリアにも、この五百年のあいだ、人間の考え方に、健康に、景観に、日常生活に、持続的に影響を与えているのは、西洋が作り出したものなのです。資本主義、共産主義、ファシズム、精神分析、エコロジー、電気、飛行機、自動車、原子爆弾、電話、テレビ、情報工学、ペニシリン、ピル、人権、そしてガス室も……。そう、こうしたすべてが、世界の幸福と不幸のいっさいが、西洋からやって来たのです。
地球上のどこに暮らそうとも、近代化とは西洋化のことなのです。この傾向は、技術的進歩によって強化され加速される一方です。確かに至るところに、特定の文明の刻印を受けたモニュメントや作品は見受けられます。しかし新しく作り出されたものはみな――それが建物であれ、制度であれ、知の道具であれ、生活様式であれ――西洋に似せて作られているのです。(pp.86-88)
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