「心の鎮痛薬」

高木昭午「生きづらい若者の逃げ道「市販薬依存」の恐ろしさ」https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190119-00000017-mai-soci


実は、シャブやシンナーよりも「頭痛薬」や「風邪薬」などの「市販薬」の方が厄介だという話。松本俊彦氏*1へのインタヴュー。
少し抜書き。


――どんな市販薬ですか。


 ◆風邪薬や鎮痛薬です。代表格が、せき止め薬の「ブロン」(通称)や、俗に「金パブ」と言われる、風邪薬の「パブロンゴールド」(同)ですが、他にもいろいろあります。

 ブロンの乱用は、1980年代後半に広がりました。ブロンもパブロンも、麻薬系の成分「コデイン」と、覚醒剤系の「メチルエフェドリン」、さらに「カフェイン」、そして「抗ヒスタミン薬」の一種の「クロルフェニラミン」、という4成分を含んでいます。当時は瓶に入ったブロンの「液剤」が大量に使われましたが、今は成分が変わりました。でもブロンの錠剤は同じ4成分を含みますし、同様の薬は市販の風邪薬などに多くあります。だから問題はずっとある。生きづらさを抱えた若者が集まるインターネットサイトでは、(市販薬の)情報が交換されています。


――どうして依存になるのですか。


 ◆ブロンやパブロンは、4成分のそれぞれは微量ですが「互いに依存性を強め合っている」と動物実験から言われています。他の薬も含めて市販薬は、複数の成分を合わせた「合剤」で、微妙に依存のリスクがある成分を混ぜたものが多い。たとえばある頭痛薬は、頭痛に効く鎮痛解熱成分のほか、カフェインや、鎮静系の成分を含みます。この余計な成分でやめにくくなります。

 つまり、カフェインで元気が出る。鎮静系の成分で気持ちが落ち着いてまったりする。度胸が出て意欲が出て、疲れが取れた感じがして、緊張感や不安も取れる。常用している人は、頭痛がなくても、一息つくために使うかもしれない。「飲まないとすっきりしない」と感じる人も出てきます。

 こうした薬が、薬局のかごの中や、若者が入りやすいドラッグストアにある。もっと困るのは、インターネットでどんどん買う子たちがいる。乱用に、薬剤師などによるブレーキがかかりません。

 女の子は、生理痛で市販薬を飲むし、買いにも行きます。「親とそりが合わない」「いじめられる」「自分が好きじゃない」などの生きづらさを抱えた子は、「心の痛み」でも薬を飲むようになることがある。精神科の外来にはごろごろいます。

 つらい気持ちを和らげるために、生理痛などの時に、鎮痛薬や風邪薬を飲むことで少し耐えやすくなる。学校に行くのは「かったるい」けれど、薬の効果で気持ちが一時的に高まって、学校に行ける。そうして「パブロン」や「ブロン」の錠剤を飲むうちに、どんどん使う量が増えていきます。「心の鎮痛薬」としてコデインを含む薬を飲むわけです。ぼくの経験では、一時的な乱用も含めれば、リストカットなどで病院に来る10代の若者の半数近くが、市販薬を乱用しています。

 それでもあまり問題化していないのは、医師にも責任があります。医師は、他の医師による処方薬には関心を払いますが、市販薬には払いそこねることが多い。一方で患者さんは、市販薬を使っていると言うと「怒られそうだ」と思って医師に言わない。それで市販薬の問題は表に出づらいのです。


――依存の治療は難しいのですか。


 ◆ぼくが、薬物依存症の中でいちばん「離脱(薬をやめること)が難しい」と思ったのは「ブロン」の依存症の人たちです。

 たとえば覚醒剤の離脱はそう難しくありません。覚醒剤で元気が出て、入院で使うのをやめると疲れて寝て、腹が減ってご飯を食べると元気になる。離脱は比較的簡単です。目の前に覚醒剤を出されると再び使ってしまうだけです。

 ところがブロンから離脱するのは大変です。ブロンの4成分のうち、エフェドリンとカフェインは「元気が出る」系統の薬です。この2成分をやめると、電池が切れたようになり、何もする気力が出なくなります。それで寝ていればいいのですが、コデインとクロルフェニラミンの離脱症状が加わります。すると、何もする気力がないくせに、寝てもいられない。不快で不快でしょうがない。イライラして怒りっぽくなり、他人に食ってかかり、室内を歩き回るようになります。

 その上コデインを含む薬をやめると、下痢が長く続いたり、汗をだらだらかいたりします。そんな状態が2、3日から数週間も続きます。

さらに、離脱した後にまた薬を使う「再発」をする患者も多い。市販薬は手に入れやすく、使っても法的に罰せられないという事情も背景にあります。

 ――使用をやめないとどうなりますか?


 ◆統合失調症と区別がつかないような幻覚や、人から追われている、尾行されているような感覚が出る人がいます。「パニック発作」も起きやすくなります。電車に乗っていて、急に動悸(どうき)がして怖くなり、電車を降りたくなったり、急に息苦しくなったり。ちょっとのことで感情的になったりもします。

 また食欲がなくなり、やせ細る人もいます。さらに「無動機症候群」と呼ばれる状態に陥り、倦怠(けんたい)感が強くて仕事に行けなくなる人もいます。

1980年代には「プロン」は「ロンプ」と呼ばれていた。今でも「10代の患者に限ると、乱用薬物としていちばん多いのはブロン」なのか。