少し前からHPVワクチン問題*1についてメモ書きをしようと思ってはいたのだが。
勝部元気*2「子宮頸がんを日本人特有の「ガラパゴス疾病」にして良いのか?」http://www.huffingtonpost.jp/genki-katsube/cervical-cancer_b_11970656.html
米国ではHPVワクチンの男性への接種が推奨され始めている。また、濠太剌利では既に男性へのHPVワクチンの接種が「定期接種」化されている。
という。
他国のHPV感染における改善状況を見ていると、このまま勧奨が中止になった状態が日本で続けば、子宮頸がんが先進国で日本特有の病気「ガラパゴス疾病」になってしまう日も近いのではないでしょうか?果たして本当にそれで良いのでしょうか?
以下少し切り取り;
確かに定期検診を毎年受ければ良いという意見もありますが、会社員ではなくなる等で定期検診を受けられる機会が減る場合も多々ありますし、定期的な検診を受けていてもがんの進行が早く、子宮を全摘出しなければならないというケースもあります。ですから、より高い確率で罹患を回避するには、ワクチンの接種が必要だと思うのです。
また、私自身もHPVワクチンを接種しています(参照:『男性だけど子宮頸がんワクチンを打ってみた』*3)が、当事者の感覚としては、ワクチンを打っていると打っていないとでは安心感も全然違います。特にHPV感染の機会となる性行為に関する安心感に関しては雲泥の差で、「ワクチン接種をしないで性行為に及ぶことは、保険に加入せずに車を運転するようなもの」と言っても良いのではないでしょうか?
おそらく「何となく副反応が不安だから」「周りの人たちも接種をしていないから」という理由で子供が受けることに躊躇している親も多いことでしょう。ですが、自分の子供が副反応と言われているような症状になる確率よりも、子宮頸がんを罹患する確率のほうがずっと高いわけですから、後者のようなシチュエーションもしっかりと想像してから判断して欲しいと思います。
また、将来子供に「どうして接種してくれなかったの!?」と問い詰められるというケースや、望ましくないですが「HPVワクチンを接種していないハイリスクな人は恋愛・結婚・セックスの対象にするべきではない」という見方が生まれて、接種させなかった娘や息子が避けられるというケースが発生する可能性は十分に考えられます。
最後に「報道」の問題が言及されているが、「報道」にフォーカスした記事としては、
子宮頸がんに関して副反応を訴える一部の人の現状は事細かに報じられても、実際HPVワクチンを接種したことで大きなメリットを得たという人の話をメディアで目にしたことはあるでしょうか?また、子宮頸がんで亡くなる年間約3,000人の遺族の声や、検診を受けていても甚大な被害に遭った人の声が、どれほどメディアで取り上げられているでしょうか?
副反応を訴える当事者とその親に偏って報道されている現状は、明らかに偏向報道だと思います。私たちはしっかりとしたメディアリテラシーを持ち合わせてメディアに向き合わないといけないですし、偏った内容に関してはノーを言わなくてはなりません。
石戸諭*4「「救えるはずの患者を救えない」 子宮頸がんワクチン副作用「問題」はなぜ起きた?」https://www.buzzfeed.com/satoruishido/hpv
津田健司氏(帝京大学ちば総合医療センター)へのインタヴュー記事。
子宮頸癌ワクチンに関する各メディアの報道は、2013年3月に朝日新聞が「東京都内の女子中学生について報じた記事」を出したのを境にがらっと変わってしまう。
(前略)2013年3月を境に、医師がポジティブと評価する報道は激減し、ネガティブもしくは中立と評価した記事だらけになる。予防の効果についての報道も減り、副作用などのリスクを取り上げる記事が圧倒的多数を占めるようになる。
ネガティヴな報道の影響;
「(ワクチン接種後)接種した左腕がしびれ、腫れて痛む症状が出た。症状は脚や背中にも広がり入院。今年1月には通学できる状態になったが、割り算ができないなど症状が残っているという」この記事を契機に、副作用を問題視する記事が次々と報道された。そのなかには、接種した後、発作のようなけいれんを引き起こすこと、あるいは歩くことすら困難な姿を強調するものもあった。副作用を訴える声は、全国各地に広がっていくことになる。
これは純然たる〈自然現象〉ではなく、社会現象(人間現象)。純粋な自然現象の場合、人間の態度に影響を受ける筈はない。例えば〈水伝〉の支持者が減ろうが増えようが、そのことによって水の状態が変化することは考えられない。
メディアの報道がネガティブに傾いたことで、ノセボ効果の引き金になったのではないか、と津田さんは指摘する。ノセボとはこういうものだ。人間は、例えば飴玉を風邪薬だと思い込んで飲むと、身体にポジティブな効果がでることがある。これをプラセボ効果という。薬だと認められるためには、プラセボ以上の効果を証明しないといけない。
ノセボはこの逆の現象だ。ある薬なり、注射を悪いものだと思いながら飲んだり、接種したりすると、本当にネガティブな効果、副作用がでてしまう。
さらに、
池田修一問題について;
「ワクチン接種の有効性を証明するエビデンス(証拠)は積みあがっており、WHOからも接種を再開すべきだと提言がでています。これはまったくといっていいくらい報道されていない」「報道のバランスが著しく悪くなっていったのです。科学的事実よりも、感情を揺さぶるエピソードが重視されている。今回のアメリカ大統領選で見られたのと同じ現象です」
HPV問題から離れても興味深いのは「思春期」、その危機的な本質だ。現在の医療体制において「思春期」が空白化されていること。「思春期」は既に「小児科」の対象ではない;
いまもなお、ワクチン接種の副作用が報道され、因果関係の有無を中心に論争が続いている。しかしその構図は、大多数の専門家が一致した見解をとるなか、一部の研究者が「因果関係がある」と主張している、というものだ。大多数の専門家はエビデンスをもとに「接種した本人にも、社会全体にも利益があり、それはリスクを上回る」と主張する。
これに対し、一部の研究者は「被害者に寄り添い」因果関係があると主張する。その根拠につながる、として注目された研究がある。
ワクチン接種が副作用を起こす仕組みの解明につながる、として信州大の池田修一教授を中心にした厚労省研究班が発表したマウス実験だ。研究班は、子宮頸がんのワクチンを接種したマウスにだけ脳に異常があった、という結果を公表した。
しかし、ほどなくして、この結果に研究不正があるという月刊誌からの指摘をうけて、信州大は調査を始める。調査の結果、研究不正は認定しなかったものの、発表した内容について「マウス実験の結果が科学的に証明されたような情報として社会に広まってしまったことは否定できない」と批判的な内容が盛り込まれた。
厚労省は「池田氏の不適切な発表により、国民に対して誤解を招く事態となったことについての池田氏の社会的責任は大きく、大変遺憾に思っております」とコメントを公表した*5。
池田氏は各メディアに対して「捏造も不正もなかったことを実証していただき、安堵した」とコメントをしているが、「反省や謝罪の言葉はなかった」(読売新聞)という*6。
津田さんの見解。「そもそも実験に使ったマウスは1匹だけであり、それも脳への影響を調べる研究でもなかった。わかりやすく例えます。サイコロが2つあり、1回目にゾロ目がでたとします。この事実をもって、これはいつでもゾロ目がでるサイコロです、と断定したように言うのは適切でしょうか?」
「エビデンスにも重みがあります。子宮頸がんワクチンについて、人に接種して得られたデータと、マウス1匹のデータでは重みが全然違うのです」
「副作用を訴える方のお話を聞いていると、いまの医療システム、縦割りの制度の狭間に落ちてしまったのではないか、と強く思います。思春期は小児科と大人の医療の間の時期であり、専門性が必要な領域です。それにもかかわらず、思春期特有の症状についての理解は医師の間でも進んでいない」
やはりかつて疾風怒濤の時期ともいわれた「思春期」をなめてはいけないということだろう。「思春期」の危機というのは勿論社会的・実存的なことなのだけど、それは生殖能力の獲得とか新陳代謝の活発化といった身体的な基礎を伴っているわけだ。大林宣彦の『転校生』*7にしても新海誠の『君の名は。』にしても、自己と他者の分離という自明性が崩れて自/他が入れ替わってしまう物語というのは、主人公が中学生や高校生だからこそリアリティを維持できるのであって、30代や40代のおっさんやおばはんを主人公にすることはちょっと考えにくいだろう。この問題については、山口昌男先生の『学問の春』(第四講「雑学とイリュージョン――ホイジンガの学問的青年期」、第七講「文化は危機に直面する技術」)も参照のこと*8。
津田さんはこう話す。「予防接種後に腫れて、痛みやしびれが起きるということは珍しくありません。そして、それが脚などに広がる可能性もありえなくはない、と思います。しかし、計算ができなくなるという症状はワクチン接種後の副作用としては一般的には考えにくい」
副作用で考えにくいのは、けいれんも同じだという。
「思春期は心身ともに大きな変化がおきます。親子関係、友人関係、進路の問題など、知らず知らずにストレスが溜まっていることも多くあります。心がバランスを取るために、てんかんの発作のような症状を起こして、病院に搬送されてくるということも珍しくはありません。しかしこの場合、てんかんとは違い脳にはなんの異常もありません」
6
「ワクチン接種に伴う痛みなどをきっかけにこのような発作が引き起こされる可能性は十分にあります。しかし、それは注射の中身がワクチンでなくても起きる可能性がある。つまり、ワクチンの成分そのものとは関係がないのです」
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See also
「HPVワクチン薬害説の起源」http://taraxacum.seesaa.net/article/444778615.html
「HPVワクチン・日本の中止」http://taraxacum.seesaa.net/article/432683389.html
「HPVワクチン薬害説のメモ」http://taraxacum.seesaa.net/article/432065528.html
*1:See eg. https://en.wikipedia.org/wiki/HPV_vaccines https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%88%E3%83%91%E3%83%94%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3
*2:http://katsube-genki.com/ http://ameblo.jp/ktb-genki/ See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150608/1433777663 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150720/1437369554 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160901/1472699191
*3:http://ameblo.jp/ktb-genki/entry-11585164862.html
*4:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160122/1453481204 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160127/1453866712 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160325/1458875216 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160409/1460163099 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160415/1460648516 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160526/1464228316 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160603/1464959516 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161105/1478309427
*5:「平成28年3月16日の成果発表会における池田修一氏の発表内容に関する厚生労働省の見解について」http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/tp161124.html
*6:「子宮頸がんワクチンデータ捏造疑惑「科学的議論不足」…信大に研究再実験要求」https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161116-OYTET50005/
*7:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080312/1205348319 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080312/1205348319 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110523/1306114247 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141112/1415759333 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161114/1479054941
*8:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110222/1298351689
*9:See eg. http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110822/1314038999
*10:See eg. http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110522/1306002698