再構成の効果

kenjou「『風の歌を聴け』を読み返してみた」https://kanjin.hatenablog.jp/entry/2025/01/11/182645


村上春樹の『風の歌を聴け*1を再読したのだという。


この小説は一つのまっすぐな連なりにはなっておらず、断片的に物事が語られる


なので一見すると軽くてふわふわした雰囲気小説のように見えるのだけれど、中に籠められているものは決して軽くない

登場人物のうちのひとりに、小指のない若い女性がいる

堕胎手術を受けており、家族との関係がうまくいっておらず、そして貧しい

「鼠」というあだ名の若者は、大学からドロップアウトしてぶらぶらしており、家が金持ちなのだけど金持ち(親)を嫌っている

それ以外にも、治る見込みの乏しい重病を患っていて、ずっと入院している少女のエピソードなどが出てくる

これらは古典小説に出てくるような、うまく生きられない、苦しさを抱える若者たちだ

なので普通の方法で、それぞれの人物が抱く重みを順序立てて描写していたら、この小説は若者たちの悩みや葛藤を描いたものになっていただろう

しかし順序を入れ替えて間を抜くことによって、そうした重みを軽減し、すらすらと読める小説に作り変えている

(そのような手順を踏んだことは作者本人が語っていた)

その結果として、淡く流して読んで気分だけを味わうこともできれば、深く読み込んで重みを自分ですくい取る、という読み方もできる小説になっている*2

そういえば、斎藤美奈子さんは『風の歌を聴け』を「妊娠小説」だとしていたな(『妊娠小説』*3)。