「定番」を知らず

生野由佳「「3人のレンガ職人」を追って 前編」『毎日新聞』2022年4月1日


訓話の定番」なんだって! でも、全然知らなかった。


「3人のレンガ職人」のストーリーとは、旅人が、建築現場でレンガを積んでいる職人に「何をしているのか」と聞く。
1人目〈見れば分かるだろう。仕方なくレンガを積んでいる〉
2人目〈家族を養うために、レンガ積みの仕事をしている〉
3人目〈歴史に残る大聖堂をつくっている〉
1人目は単純作業として、2人目は生活のため、3人目は後世の人々の心のよりどころとなる大聖堂を建てようとレンガを積む。何を目的とするかによって、感じ方は違ってくる。同じ働くなら、夢を持って働く「3人目の職人」でありたいとの訓話だ。
いかにも「訓話」。いかにも校長とか社長とかが好みそうな話だ。
イソップ寓話*1だという説がある。しかし、現行の岩波文庫版には収録されていない。「イソップ」の専門家である吉川斉氏(成城大学)曰く、「『3人のレンガ職人」』の物語は、今回の取材を受けて初めて知りました」。思うに、そもそも「大聖堂」が出てきた段階で「イソップ」説は却下すべきだろう。イソップは紀元前600年頃の古代希臘の人。「大聖堂」は基督教(カトリック)の建物。つまり、「大聖堂」という建物ができるのは耶蘇の生涯が終わった後、つまり紀元後のことである。耶蘇生誕の数百年前に生きていたイソップが「大聖堂」を知る筈はないのだ。大神殿ならともかく。要するに、「イソップ」ではなく「ウソップ」!
広島県福山市の中学校の校長先生」が作者だという説がある。その「校長」(現在は退職)に取材すると、「別の校長先生から紹介されたストーリー」であるという。その「別の校長先生」は「私が捜索した話ではありません」という。本やインターネットから拾ったのだという。しかし、「出典」は憶えていない。
また、経営学者のピーター・ドラッカー*2が出典だという説もあるという。
私の印象を言えば、〈心理主義*3の匂いがぷんぷんする話だ。ここで語られているのは動機づけ(motivation)の話。マズロー周辺或いはフォロワー?