キッド、ホリデイ、ジョエル?

承前*1

以下エログロ注意。

伊藤比呂美切腹考」。1980年代に伊藤さんが「Bという雑誌」の企画で「生の切腹」を見物した話。


あれは、 Bという雑誌であった。ある日とつぜん電話がかかってきて、切腹の実演を見ませんか、そしてそれについて書きませんかと言われた。
Bは、変態がテーマの雑誌だった。変態雑誌なら、その昔、Kという雑誌があった。K誌の名は、切腹好きならみんな知っている。千葉徳爾先生の『切腹の話』は一九七二年の発行だ。切腹愛好家なら、みんな読んでいる名著である。そこに引かれたいくつもの切腹例が、まさにこのK誌からの引用で、わたしにはポルノ的粉飾と実録の区別がつかなかったものだから、目を輝かせて読みふけった。そのうち、自分が興味あるのは、深刻な実録ではなく、ポルノ的粉飾のある文芸作品なのかもしれないということに思い至った。
わたしが名著『切腹の話』を読んだときには、K誌はもう廃刊されていたと思う。今のように古本や古雑誌の手に入りやすい時代ではなかったから、本物を見たことは一度もない。SM、革フェチ、緊縛、妊婦、スカトロ、なんでもありだった。その中に切腹は、どうどうと一ジャンルを作っていたのである。(pp.10-11)
「1980年代に存在したBという「変態雑誌」については知らない」と書いた。1980年代に刊行されていた、タイトルがばびぶべぼで始まる(たんなるエロではなく)「変態雑誌」ということでちょっと調べたら、白夜書房*2から出ていた『Billy』という雑誌*3が浮かんできた。
Wikipediaに曰く、

『Billy』(月刊ビリー)は、白夜書房が1981年から1985年まで発行していたポルノ雑誌。キャッチコピーは「スーパー変態マガジン」。

スカトロから死体・獣姦・SM・児童買春・切腹マニア・幼児プレイ・ロリコン・ドラッグ・シーメール・アナルマニア・フリークス・ボンデージ・フィストファックまで豪華なラインナップで綴る悪趣味の限りを尽くした日本を代表する伝説的変態総合雑誌であり、鬼畜系と呼ばれるエロ本の草分けとして名実ともにエログロ雑誌の一時代を築き上げた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%83%AA%E3%83%BC_(%E9%9B%91%E8%AA%8C)


『ビリー』最大の功績は変態性欲から一切の美学や思想を排して即物的に扱ったことにあったという。本誌で記事を書いていた下川耿史は『ビリー』の魅力について「死体をアートに見せようとか、スカトロに文化史的な意味を見いだそう、なんていうことをこれっぽっちも考えなかった点がすばらしい」と語っており、同様に永山薫も「『ビリー』がすごかったのはコンテキストさえ変えちゃえば文化になるようなことを、文化にしないでやってたっていうこと。それがやっぱり面白いと思うんですよ」と述懐している。これについて編集長の中沢慎一も「見せ物に撤していましたね。気取ったり、媚びたりしないで、実際あるものをそのまま見せ付けた雑誌でした」と当時を振り返っている。

つまり本誌が真の意味で異端であったのは、単に死体写真や変態写真が大量に載っているからではなく、それまで一部のインテリ層のみが高踏趣味として触れてきた悪趣味文化を中学生でも楽しめるエンターテインメントとして取り上げたオルタナティヴな視点にあった。もちろん同誌が登場する以前から悪趣味を扇情的に取り上げた雑誌はあったものの、大抵は自販機本やミニコミ誌などの片隅にひっそりと掲載されている程度で特段目立つものでもなかった。また、それ以外の場合だとペヨトル工房の『夜想』「屍体」特集をはじめ耽美的ないし法医学的な観点から取り扱われることがほとんどだったため、当時の出版業界には変態や悪趣味など鬼畜系サブカルチャーが商業的に成功するだけの力場を持ちあわせていなかったのである。

本誌について白夜書房出身の風俗ライター・ラッシャーみよしは「ウンコだSMだフィストファックだ死体だ奇形だ。言ってみれば『クイックジャパン』と『危ない1号』と『GON!』を全部ぶっこんだような雑誌」「もっとも『危ない1号』の青山正明編集長はこの頃の白夜書房のメイン・ライターだけど。それはともかく『ビリー』の衝撃というのは他に似た雑誌がなかっただけにものすごいもので、毎月、毎月、うひゃあとか、こんなんありィみたいな感動にうちふるえていたわけさ」と後年回想している。

タイトルについて。
実は、創刊当時は「変態雑誌」では全然なかった。


太田出版ケトルニュース「年に4回も不健全図書指定 80年代の過激雑誌『ビリー』の中身」https://news.infoseek.co.jp/article/kettle_20190819_014789/


曰く、


ロリコン雑誌の『ヘイ!バディー』と並んで80年代の白夜書房を代表する過激雑誌と言われた『ビリー』。死体、奇形、同性愛、スカトロ、獣姦、そしてありとあらゆる変態を取り上げた伝説の雑誌だが、創刊時はインタビュー中心の極めて真面目なカルチャー誌だった。

巻頭と巻末にヌードグラビア(篠塚ひろ美と小川恵子が出ているのはポイント高い)はあるものの、一色ページは16歳の三原順子のインタビューから幕を開ける。当時の彼氏(宮脇康之)の話はもちろん、それ以前につきあっていた男のことまでも包み隠さず話す等身大の少女・三原順子がたまらなく魅力的だ。

誌名にひっかけた「ビリー派宣言」では、川本三郎ビリー・ザ・キッドについて、桑田佳祐(!)がビリー・ホリデイについて、今井智子ビリー・ジョエルについて語る。さらに近田春夫相倉久人の音楽対談、ウーマンリブガンダム、プロレス、(英バンドの)ジャパン、鈴木邦男、沖縄……。今、読むと非常に興味深い誌面だが、白夜書房の返本率記録を作るほど売れなかったらしく路線変更を余儀なくされる。

「同性愛」を「変態」に括るのは1980年代文化の限界であって、勿論21世紀に通用するものではない。