「不完全情報ゲーム」!

小杉悠平*1「熱狂を外へ 麻雀の現在と未来」『書標』(丸善ジュンク堂書店)516、pp.10-17、2021


今「麻雀」*2は熱いのか? ジュンク堂のPR雑誌に、8頁に亙る「麻雀」本紹介記事が掲載されている。
小杉氏曰く、


Mリーグという競技をご存知だろうか。
麻雀の頭文字MをとってMリーグ。同機構は麻雀を、ギャンブル職を排したクリーンな知的スポーツと標榜する。ひと昔前であれば、劇画のような鉄火場、あるいは場末感漂うイメージで、近寄りがたいアングラな存在として語られていたこともある麻雀なのだが、近年では女性プロも多く輩出。雀士のテレビ地上波等への露出も増え、麻雀界全体のイメージ向上に貢献している。例えば俳優の萩原聖人日本プロ麻雀連盟に所属し、ドラフト一位で指名され、初年度からMリーグに参戦していることをニュースで知られた方もおられるのではないだろうか。麻雀界は、オグリキャップ人気以降の競馬がそうであったように、老若男女問わずファンを取り込みつつあり、その裾野は確実に広がっている。
実際、街には「健康麻雀」という「飲まない、賭けない」店舗が多く営業していて、認知症予防の効用の謳い文句と共に、高齢者を含む幅広い世代で、頭の健康や趣味の一つとして気軽に興じる人口を底上げしている。最新の『レジャー白書』によれば、日本の麻雀人口は四〇〇万人にも及ぶ。(p.10)
「麻雀」とは何か?

麻雀は不完全情報ゲームである。まず四人の手牌は見ることができない。そのうえ、王牌と呼ばれる、その一局の勝負が決着してもしなくいぇも開示されない「山」は、十四牌存在する。手牌の十三牌×自分以外の三人分×王牌から表ドラを除いた十三牌=五十二牌が、少なくとも「不完全情報」である。およそ三分の一が分からない。ただし、局が進行していくにつれ、四人のプレイヤーは自分の手の牌と山の牌とを順番に交換していく(そのまま切られる場合もある)。手の中から捨てられた不要な牌、すなわち捨牌は重要な情報だ。牌の総数は限られているのだから、目に見えている牌の数から、まだ見えていない牌が何かを予測することは、理論的には可能であり、このあたりはトランプ競技に近い。
相手の頭の中以外はすべてが「見えている」囲碁や将棋に比べて、ブラックボックスが必ず存在する不完全情報ゲームの麻雀。とすれば「確実とは言えないが可能性は高い」一打を繰り返し、自身の持ち点を終局までいかに増やすかの正確な判断が重要になる。いわゆる期待値という考え方だ。そして、数字の連なりや組み合わせという要素はパズルにも近いし、可能性を追求するゲームという意味では、確率・統計と親和性が高い。麻雀というゲームの本質を理解できれば、こうした方面の研究を進めることはごくあたり前の勝利へのアプローチだが、それまでアナログ的な戦術が多かった業界に、デジタル的な概念が持ち込まれたのは、実は最近のことだ。(p.12)