川上弘美*1「ポーランド 2019年秋」『本の窓』(小学館)399、pp.16-27、2020
科学者、マリー・キュリーを巡って;
伝記の中で印象に残っている場面は、まだ大学に行く前のマリーが、こっそり子どもたちにポーランド語を教えるところだった。当時ポーランドはロシア帝国の統治下にあり、公用語はロシア語だった。「ポーランド」という国は解体されており、もともとの母語であるポーランド語は学校では教えられていなかった、ということをわたしが知るのは、後年のことだ。小学生だったわたしは、なぜポーランドなのに、ポーランド語をわざわざ隠れて教えなければならないのだろうと、首をひねるばかりだったのだ。
たとえば、台湾の、あるいは中国の、また韓国の、ある地域と年代のひとびとが、今のわたしたちよりずっと美しい日本語を使うことができる、ということを知るのも、後年のことだ。統治下の国に対して、その国の言語ではなく統治国の言語を公用語とする、というありかたを、第二次世界大戦後の日本に生まれ育ったわたしは、想像することもできなかったのである。(p.17)
*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070702/1183349034 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090428/1240883343 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090507/1241668802 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160523/1463970478 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160802/1470118140 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160902/1472787810 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160916/1474052363 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180504/1525403770 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20181016/1539662554 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/15/135754 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/04/20/103224 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/04/28/093542 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/08/12/225503 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/09/09/140246 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/01/21/155328 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/07/02/085816