「自分と交わる」

鴻巣友季子*1「山下紘加著『クロス』」『毎日新聞』2020年5月23日


曰く、


この数年、性的少数者を題材にした小説が増えている。それを書くことが当たり前になったのだ。
川上弘美『森へ行きましょう』や川上未映子『夏物語』*2のように性的少数者がさりげなく出てくる作品もあるし、千葉雅也『デッドライン』*3や本作のように、少数者であることそのもの、そこで生じた揺らぎや軋轢を主題にした作品もある。

「わたし」が自分と交わる場面がとりわけ官能的だ。「私」にとっての女は人に見せるより「女の自分」に会うためであり、最終的に越えるのは性ではなく自他の境なのではないか。究極の孤独がそこにある。
このことを確かめるには、この小説を実際に自分で読むしかないか。当り前だけど。