「猫が食べたみたいな」

ハヅキさんのこと (講談社文庫)

ハヅキさんのこと (講談社文庫)

川上弘美*1「テレビ」(in 『ハヅキさんのこと』、pp.155-162)から。


水野さんと友田さんは学生時代からの友人なのだという。卒業してから共に研究者となって別々の大学に所属したが、水野さんは十数年前、友田さんは数年前に、大学を辞め、以来二人とも文章を方便*2の道とするようになった。(p.156)
「定食屋」にて;

「そういえば友田さん、こないだテレビに出るって言ってたじゃない」と水野さんが言った。木野さんのご飯茶碗は、もう空だ。
「そうそう、朝早くに放映するらしい番組の中のね、案内役みたいなもんで」
友田さんは秋刀魚の目玉のあたりを丹念につついている。秋刀魚の繊細な骨が、骨格標本のようにきれいになって皿にのっかっている。猫が食べたみたいな、きれいな食べかたをする人だ。水野さんのほうは、頭からむしゃむしゃかぶりついていて、皿の上には骨も何も残っていない。(pp.158-159)
「猫が食べたみたいな、きれいな食べかた」という表現が突出している。まあ、焼き魚を食べると、その人のキャラクターが露呈してしまうというのは確かなようだ。