Spoonerismやっちゃった

パスタマシーンの幽霊 (新潮文庫)

パスタマシーンの幽霊 (新潮文庫)

川上弘美*1ピラルクの靴べら」(in 『パスタマシーンの幽霊』、pp.101-114)


「わたし」は「高校の水族館同好会」の友達の「弥生ちゃん」と「電車に乗って、ずっと乗って、さらに乗って」「海のそばにある水族館」へ行く(p.101)。


水族館はすいていた。わたしが弥生ちゃんと知り合ったのは、高校の水族館同好会である。組も違うし、友だちのグループも違うわたしたち。服の趣味とかお休みの過ごしかたとか、ほとんど重なるところはないのだけれど、水族館が好き、というのだけは同じだった。
「でも栗子ちゃん*2、なかなか一緒に水族館に行ってくれないからなあ」
弥生ちゃんはときどきこぼす。わたしは出かけるのが好きじゃない。お休みの日はいちにち家にいて、お菓子を作ったりゲームをしたり手紙を書いたりするのが、いちばん楽しい。
「でもせっかく水族館が好きなら、何回でも繰り返し行かなきゃ」弥生ちゃんは言う。
わたしは、「一つの水族館一回こっきり派」なのだ。ひとたびその水族館に行ってきてしまえば、それでもうすっかり満足する。入口の水槽にマンボウが泳いでいて、回遊水槽はあんまり充実していないけれど、オオカミウオ*3が三匹いたな、なんていうようなことを、反芻するようにして何回でも家で思い返すのが、好きなのだ。
「それは栗子ちゃんが自分の家族に満足しているからだね」
弥生ちゃんは決めつける。何でも「家族」に結びつけてしまうのは、弥生ちゃんの癖だ。だって、あたしには家族がないから*4。弥生ちゃんは言うけれど、そうなのかな、と、わたしは思ったりする。まるちゃん*5は家族じゃないのかな、って。
バスケットをロッカーに預け、弥生ちゃんは精力的に水族館じゅうを見てまわった。わたしは弥生ちゃんよりずっと遅れて、ゆっくりと見ていった。ピラルクの水槽の前で、ようやく弥生ちゃんに追いついた。
「へんなの」
弥生ちゃんはガラスの手前にある白い説明板を指さした。
ピラルクのうろこはとても硬いので、現地の人々は靴べらとして使います』
説明板にはそう書いてあった。水槽の中のピラルクは、体長一メートル以上の大きなものだった、くちばしがとがっていて、大きさにくらべて厚みがなくて、ふわふわ浮いている様子は、なんだか心もとない感じだ。
ピラルク。ここにいて、楽しいのかな」
わたしがつぶやくと、弥生ちゃんは、
「靴べらになるよりは、まあ、いいのかなあ」
と、これも、つぶやくように答えた。(pp.104-106)
この短篇の中では、この「ピラルク」のくだりがいちばん印象に残った。まあタイトルもここを参照しているのだけれど。
ピラルク*6、最初、勝手に「ピラクル」だと思ってしまった。「ピラクル」で検索しても、Wikipedia等々の基本的な情報は出てきたので、ほんとうは「ピラルク」だと気づいたのはけっこう後になってから。(きっこ風にいえば)ピックル一気飲みだぜ! 「テッコンキンクリート」と同じようなspoonerismだ、やれやれ(鴻巣友季子「ちがくって!」in 『孕むことば』、p.111*7)。
孕むことば (中公文庫)

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