童貞話 - Living, Loving, Thinking, Again

https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/30/175741に対して、

id:osaan
カントはオナニー否定論者でしたが（『人倫の形而上学』）、あまりモテたような話を聞きません。カント自身、肝心の性欲が欠けていたのかもしれませんが。

作者: カント,白井成允,小倉貞秀
出版社/メーカー: 岩波書店
発売日: 1954/06/25
メディア: 文庫
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カントのオナニー否定論に関しては、例えば、

江口聡「カント先生とセックス (5) オナニーも禁止です」https://yonosuke.net/eguchi/archives/1152
“History of masturbation” https://en.wikipedia.org/wiki/History_of_masturbation
“Immanuel Kant on human sexuality” https://en.wikipedia.org/wiki/Immanuel_Kant_on_human_sexuality
Diana Hsieh “Readings: Immanuel Kant on Sex, Marriage, and Masturbation” http://www.philosophyinaction.com/blog/?p=12054

をマークしておきます。
「性欲が欠けていた」かどうかは知らないですけど、カントが死ぬまで童貞だったことは事実のようです；

Corey Mohler “Immanuel Kant: the 40 Year Old Virgin” http://existentialcomics.com/comic/162
Sunny Chauhan “16 Well Known People Who Perhaps Died A Virgin” https://topyaps.com/16-well-known-people-perhaps-died-virgin/
“10 Oldest Virgins in the World” http://www.oldest.org/people/virgins/

ところで英語のvirginは性別を問わず、まだやったことのない人を指します。まあ、日本語の「童貞」もそもそもは性別を問わなかった筈ですけど。それはともかくとして、アイザック・ニュートン *1も生涯童貞だったわけですね。アンディ・ウォーホル *2もか！
さて、カントがセックス（性欲）一般を貶めるのは、それが自然への屈伏であると見做されたからですが、オナニーが禁止されたのは逆にその〈反自然性〉の故です。ここでいう〈自然〉というのは生殖という目的性であるわけですけど、同性愛や獣姦も同様の〈反自然性〉故に禁止されています。同性愛の抑圧（弾圧）として先ず考えられるのは、イスラームとか基督教といった宗教的教義を持ち出しての抑圧。また、世俗的倫理に基づくもの。例えば、（ブレア以前の）英国やその旧殖民地の英連邦諸国における同性愛の禁止は、人間性（human nature）に反するが故ということでした*3。また、スターリン主義諸国での同性愛の抑圧も同様な理屈に基づいたものでしょう。私が疑っているのは、こうした発想はカント独自のものではなく、近代西洋の知識人の間でコンセンサスとして共有されていたものなのではないかということです。

*3:英連邦諸国における同性愛の抑圧については、例えばHelen Davidson “Homosexuality illegal in 41 out of 53 Commonwealth countries – report” http://www.theguardian.com/world/2013/nov/10/homosexuality-illegal-in-41-out-of-53-commonwealth-countries-report [Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20131225/1387903579 Reality Check team “Commonwealth summit: The countries where it is illegal to be gay” http://www.bbc.com/news/world-43822234 [Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180422/1524332097]などを参照のこと。