John Donneなど

承前*1

日本のローカル紙では地元在住の英国人へのインタヴューを試みているというのが興味深かった;


「鹿児島在住の英国人「争いごと増える」と不安 英EU離脱」(『南日本新聞』)http://this.kiji.is/119104371927891971
「母国の将来 懸念強く 英EU離脱派勝利に青森県南在住の英国人」(『デーリー東北』)http://this.kiji.is/119288540533948418
「「民主主義の結論」重く EU離脱に驚き、不安 栃木県在住英国人ら」(『下野新聞』)http://this.kiji.is/119358997874704387


ここに登場する日本在住の英国人の殆どが「残留」派であることも注目に値する。
さて、ブレイディみかこ*2「英国EU離脱投票、世論調査で離脱派リード:「経済のハルマゲドン」の脅しが災い」*3に曰く、


EU離脱の是非に関しては世代間で大きなギャップがあるというのだ。

BBCが50歳以上のほとんどの人々は「離脱」を支持しているが、若年層では「残留」支持が増えるという主旨の特集を行っている。

50代以上の、マジョリティーは英国人。という時代に育った人々は「国境を閉じて、移民をコントロールしろ」という考え方が主流だが、移民に囲まれて育った若いダイヴァーシティ世代は「なんで今更閉ざすの?」と思う人が多い。今回のEU離脱投票の鍵を握るのは若者たちだとも言われ、コービンや、女優のエマ・ワトソンなどが若い世代に「投票に行って欲しい」と呼びかけている*4

わたしの周囲でも、配偶者の同僚、友人のような中高年労働者はやはり圧倒的に離脱派が多い。逆に、同じ労働者階級でも若い同僚の保育士や学生はみな残留派だ。EUがなかった時代を知っている前者は「別に英国はあの頃も大丈夫だった」と言うし、EU世代の後者は「だって海外旅行が大変になるんでしょう?」という素朴な疑問を抱いていて、欧州の他国出身の恋人がいる子(これがまたけっこういる)などは切実に残留を望んでいる。

EU離脱投票の行方を決めるのは、実は「右」対「左」の概念ではなく、どうやら階級や年齢層で分かれる「上」対「下」のようだ。

「年齢層」の上下に関しては、溝呂木佐季*5「【EU離脱】高齢者に怒り、悲痛な声をあげる若者たち なぜ?」*6も参照。それによると、境目は43歳であるという。冒頭で紹介した日本在住の英国人たちもその殆どが20代である。世代だけでなくて、例えばスコットランドアイルランドVS.イングランドとか、倫敦VS.それ以外といった亀裂もあったわけだ。
ところで、「英国は昔から大陸とは一線を引いていて、欧州よりは米国の方と親和性が高いように見えていたので、正直あまりおどろきはない」という意見*7。上で引いたブレイディみかこさんも「スコットランドがグレイトブリテンの一部になったのは300年前の話だが、それに比べればEUなんてのはぜんぜん最近のこと」といっているね。今偶々熊野純彦*8『西洋哲学史 近代から現代へ』を読んでいるのだけど、特にこの本の前半の目的の一つとして、よく言われる〈大陸合理論〉と〈英国経験論〉の対立を相対化するということがあるんじゃないかと思った。ニュートンにせよロックにせよライプニッツにせよヒュームにせよ、大陸と島とで、それぞれ孤立していたのではなくて、かなり密接な交流と論争のうちに、それぞれの思想が展開されていった。ところで、現在の英国王室はエスニシティとしては独逸人であり、長い間独逸のハノーヴァー王とイングランド王は兼任で、ハノーヴァー王とイングランド王が別人になったのはヴィクトリア女王以降に過ぎないということは、もしかしたら英国人自身も忘却しているのかも知れない。独逸とイングランドの違いはフランク王国の一部だったかどうかということであり、ヴィクトリアがハノーヴァー王になれなかったのもそれと関係がある*9。まあ、王室も(特に20世紀に入ってからは)独逸っぽさを消して英国に帰化しようと努めてきたということがあるわけだけど。
西洋哲学史―近代から現代へ (岩波新書)

西洋哲学史―近代から現代へ (岩波新書)

また、読んでいた本(Richard Wilkinson & Kate Pickett The Spirit Level)にジョン・ダンの詩句が引用されていた;

No man is an Island, entire of itself; everyman is a piece of the continent, a part of the main. (Cited in p.173)
The Spirit Level: Why Equality is Better for Everyone

The Spirit Level: Why Equality is Better for Everyone