『消失点』と「ホモソーシャル」(メモ)

承前*1

中島京子、北村紗衣「批評眼を持つと人生はもっと面白くなる。」『本の窓』(小学館)392、pp.14-21、2020


抜書きの続き。


中島 ご著書*2で、取り上げられていた題材の中で特に興味深かったのが、ホモソーシャル*3の話です。
北村 映画の『バニシング・ポイント』を批評した章ですね。
中島 残念ながら映画自体は観ていないのですが、北村さんの批評を読んで、フェミニストという視点から見ると、この映画の中の男性二人の関係はこう読み解けるんだと、すごく興味がわいてきました。
北村 盲目のDJがラジオを通して、悪徳交通警察隊に追われるドライバーをひたすら応援するという話です。しかも二人は、一度も会ったことがない。
中島 DJは警察無線を傍受しているから、ドライバーの様子を知ることができるけれど、ドライバーはラジオから聞こえてくるDJの声だけ。二人の間には、対話の方法はないんですね。でも次第に、両者の間に通じ合うものが生まれてくる。そんなホモソーシャルな関係が腐女子にはたまらないと、北村さんは分析するわけです。
北村 ホモソーシャルというのは、恋愛や性的な意味合いを持たない同性間の結びつきのことで、ホモセクシュアルとの間には明確に線がひかれています。
中島 だからこの映画ではゲイのカップルが出てくる場面は、嫌な感じの表現になっているのだと、作り手には、二人の関係がゲイ的だと読まれたくないという意図があったのでしょうか?
北村 多分それもあると思うのですが、この映画は一九七一年の作品です。欧米では最近まで、同性愛は認められていなかった。当時、同性愛=堕落だと考えられていました。そういう時代性もあると思います。主人公がゲイのカップルにひどい目に遭わされそうになるシーンがあるのですが、堕落した悪いことから逃れて、清らかなままでラストまでいきますということを、何となく暗示しているんだと思います。
中島 そうですよね。LGBTに関しても欧米は進んでいるという、ありがちな固定観念があって、ついゲイもレズビアンもあたりまえに市民権を得ているように思ってしまうんですが、違うんですよね。たとえば大ヒットした映画『ボヘミアン・ラプソディ*4でも、フレディ・マーキュリーが生きたのは、ついこの間まで同性愛が違法だった時代、そういう背景を改めて知ると、映画に対する見方も変わってきますね。(pp.18-19)
私見では、「ホモソーシャル」と「ホモセクシュアル」の間に線は「明確に」は引けないのではないかと思う。だからこそ、「ホモソーシャル」に関して何らかの態度を取ることは、「ホモソーシャル」を肯定するにせよ否定するにせよ、ホモフォビアを招来してしまう危険性が高い。
なお、「 フレディ・マーキュリーが生きたのは、ついこの間まで同性愛が違法だった時代」というより、まさに「違法」だった時代なのでは? 英国で同性愛行為が完全に合法化されたのはトニー・ブレア政権になってから*5。だからこそ、ブレアはゲイ・コミュニティにおいてiconとして讃えられている*6
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*1:https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/06/25/010828 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/06/28/083850

*2:『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』書肆侃侃房。

*3:See eg.http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060305/1141591716 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061012/1160664502 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080430/1209520910 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090702/1246541132 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090716/1247682636 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091124/1259062337 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110711/1310400277 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150512/1431444219 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160310/1457624745 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160423/1461397446 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160730/1469838677 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161115/1479241450 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171114/1510685554 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171121/1511240378 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180217/1518868359 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180320/1521518896 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180412/1523502822 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180517/1526522149 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180715/1531680877 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20181018/1539873975 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/03/05/001108 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/04/26/094800 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/06/11/214932 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/10/16/225431 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/01/21/085529 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/02/12/013938

*4:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180525/1527248001 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/29/144249 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/26/233015 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/04/07/125503 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/01/05/005947

*5:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20090914/1252898898 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20140927/1411785366 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180705/1530815180 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/01/020300 非犯罪化は1967年に始まっている。しかしながら、同性愛が十全な意味で合法化されるのは2003年を待たなければならなかった。See Peter Tatchell “Don’t fall for the myth that it’s 50 years since we decriminalised homosexuality” https://www.theguardian.com/commentisfree/2017/may/23/fifty-years-gay-liberation-uk-barely-four-1967-act “London Pride parade: History of gay rights in the UK” https://www.bbc.co.uk/newsround/40459213

*6:See Benjamin Butterworth “Why Tony Blair is a gay icon” https://www.theguardian.com/commentisfree/2014/sep/26/tony-blair-gay-icon-gay-times-attitude