2019/2020 - Living, Loving, Thinking, Again

承前*1

川上弘美「ポーランド　２０１９年秋」『本の窓』（小学館）399、pp.16-27、2020

この文章を書いている今は、二〇二〇年。ポーランドに行ったのは、二〇一九年だったのだが、わたしがアウシュヴィッツをおとずれた二〇一九年は、今まででいちばんたくさんの人がアウシュヴィッツを訪れた年だったそうだ。そのとおり、朝早く入場したにもかかわらず、すでに駐車場には大型のバスが難題も連なっていた。かたまりになった人たちが門をくぐって、アウシュヴィッツ第一強制収容所の敷地へとすいこまれてゆく。
ユダヤのひとびとだけでなく、同性愛者やロマのひとたちも収容されていたいくつもの棟が、そのまま博物館となっている。写真、説明、音声、おびただしい遺物、積み上げられた眼鏡、靴、かばん、服、髪の毛。
無言で歩き、見、読んでゆく。ぎっしりと人がいるのに、部屋の中はつめたい。外は明るい。棟の中にも、灯がともっている、湿度は高い。それなのに、体の芯が、どんどんつめたくなってゆく。
気がつくと、入場してから四時間がたっていた。言葉もなく、第一強制収容所から車で少し走ったところにある、アウシュヴィッツ第二強制収容所ビルケナウへ向かう。構内は第一強制収容所の何倍もの広さである。イスラエルの国旗をもった学生の一団が、輪になって歌を歌っている。ひっきりなしにくる大型バスから、無数の人がおりてくるのに、構内があまりに広いので、閑散としているように感じられる。
二〇二〇年六月現在、COVID-19のため、アウシュヴィッツ強制収容所は訪れる人がほとんどいなくなり、施設は存続の危機にあるという。あの、だだっぴろいビルケナウにも、人があふれていたアウシュヴィッツ第一にも、大戦後に収容所が閉じられたのちの荒涼とした空間が、ふたたび戻ってきているのだろうか。（p.25）

さらに、フランクル『夜と霧』*3の池田香代子訳と霜山徳爾訳との比較（pp.25-26）。

*1:https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/07/02/144334

*3:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20091007/1254945864 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110821/1313861365