「デブ」(メモ)

NORIMITSU ONISHI氏の”Japan, Seeking Trim Waists, Measures Millions”*1という記事がNYTに掲載されて以来、日本の〈反メタボ〉政策については米国でもけっこう盛り上がっているみたいだ。
さて、「デブ」に関して、偶々以下のような「マスダ」さんの記事を見かけた;


デブが差別されるのは必要なコストを負担してないからじゃね?

たとえば飛行機で隣の席がデブだったら絶望的な気持ちになるけど、それは負担しているコスト=料金が同額だからだろ。同じカネ払ってるのに、デブは空間を消費するし、航空燃料もより多く食う。この不公平感の積み重ねがダメなんだ。

ということは体重に応じて料金を変えればいいのよ。美容室だって、パーマ料金は髪の長さに応じて変わる。だから美容室で長髪の奴が差別されるなんてあり得ないだろ? 美容室にとっては上客だし、短髪の客はそのぶん安く済ませられる。あとは個人の好みと支払い能力に応じて、自分の髪の長さは自由に決めればいい。喫煙者だって、最低限納めるものは納めてるという免罪符があるよね。

たしかに体質的に、自分の意志だけでは絶対に痩せられないデブもいると思う。そういう人にまで負担を求めるほど日本の社会は厳しくないはず。つまり医師の診断書に基づいて一種の障害として認定し、政府が証明書を発行すればいいんじゃないのかな。

こうしてデブは差別から解放される。デブでありたい奴は必要なコストを負担する限り、デブであり続ければいい。それが嫌なら痩せればいい。
http://anond.hatelabo.jp/20080627075219

飛行機の座席に関しては、一般的にどうかはわからないけれど、小錦が自分はいつも飛行機では2人分の料金を取られるのにマイルは1人分しか貯まらないと怒っていた。また、下着とか水着を考えれば、ビキニやTバックは使用する布の量が少ないからといって安くはならない*2
それにしても、こういう正当化というのも凄いと思った。欠食児童というのは今でも生きている言葉なのか。例えば、

たとえば、国家公務員の人が長時間労働で苦しかったとする。けれども、「国家公務員に比べれば民間企業の人の方がもっと厳しい」という言い方がされる。それについても、「民間企業の正社員よりもフリーターの方がネットカフェ難民で厳しい」と言われる。さらに、「ネットカフェ難民よりも本当の野宿者の方が厳しい」と言われる。最後には、 「日本の野宿者よりもアフリカのスラムの貧民のほうが厳しい」と言われる。
http://ameblo.jp/kokkoippan/entry-10105594109.htmlhttp://d.hatena.ne.jp/sunafukin99/20080615/1213489669から孫引き)
というような理屈と似ている感じがするけれど、これと同じように、「デブ」を「必要なコストを負担してない」として糾弾する人は、(多分)無限の相対化の蟻地獄に自ら放り込まれることになる。世間の基準で「デブ」だとされている人も相撲部屋に行けばただのチビかも知れないし、日本を含む先進国の基準で痩せているといわれる人もダルフールアフガニスタンの難民キャンプに行けば「デブ」だと思われるかも知れない。そういうものだ。
ところで、上のような態度は新自由主義イデオロギーの内面化の効果であると左翼的に批評することも可能であろう。それとともに、反差別運動や平等主義思想の副作用でもあると思うのだ。しかし、単純なバックラッシュではない。この人は素直に自らの差別的態度を肯定できない。だからこそ、理屈が必要になる。

コストとかいちいち考えてデブを差別している人ってどんだけいるんだろ(笑)。「見た目が気に食わないから(不快感を増幅するから)差別する」んでしょ。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://anond.hatelabo.jp/20080627075219
というコメントあり。「デブ」が何故差別されるのかといえば、その身体の太さが(統計的な意味での)ノーマルを超過しているからだろう。そのようなdeviantなものに対して、蔑視的な感じを抱いたり、逆に崇拝的な感じを抱いたり、或いは両義的な感じを抱くというのは、或る意味で自然なことではある。さらに、差異とか(自分にとっての)ストレンジさに素直に驚くことというのは他者を尊重することにも繋がるといえる。しかしながら、或る種の平等主義というのは差別の根元にある差異を消去しようとするのだ。これは少数民族が平等に扱われるためには同化しなければならないという理屈と同じものだ。
ところで、「デブ」に対する社会的・文化的態度というのはすぐに変わるかも知れない。Hair Sprayはヒットしているぜ。勿論、「デブパレード」が酷いということは変わりないが*3

*1:http://www.nytimes.com/2008/06/13/world/asia/13fat.html

*2:一時、ビキニよりも凄いチェルノブイリというのが流行りかけたが、今はどうなっているのか。

*3:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080625/1214362671