「可視化」は不可視?

『朝日』の記事;


全面可視化「すべての事件対象は現実的でない」 法務省

2010年6月18日12時13分


法務省は18日、取り調べの全事件、全過程を録音・録画する「全面可視化」について、「すべての事件を対象とするのは現実的ではない」とする中間報告を明らかにした。全過程についても「事件関係者や捜査手法に与える影響を踏まえ、さらに検討する」とした。来年6月以降に意見をまとめる。

 同省によると、検察庁が1年間で受理する刑事事件は約200万件。可視化のための機材購入の費用負担などを考慮すると、対象事件を絞り込むべきだと結論づけた。今後、すでに一部の事件で実施している録音・録画の実効性を調査するほか、可視化を制度化している外国に検事約20人を派遣して、運用状況を調べるという。

 対象事件の範囲については、千葉景子法相が3月、必ずしも全事件の可視化にこだわらない姿勢を示していた。17日には民主党内の「取り調べの全面可視化を実現する議員連盟」の国会議員3人が千葉法相を訪れ、「まず裁判員裁判対象事件から実現し、段階的に進めるべきだ」と申し入れた。

 日本弁護士連合会の宇都宮健児会長は「取り調べの全過程の録画が不可欠なのは、足利事件などの冤罪事件から見ても明らかで、同省の方針は可視化を後退させる議論だ。速やかに立法作業を開始すべきだ」とする声明を出した。
http://www.asahi.com/national/update/0618/TKY201006180236.html

また、『毎日』の記事;

取り調べ可視化:対象事件「限定」、法相方針 民主党公約の「全面」、現実にらみ転換

 千葉景子法相は18日の閣議後会見で、取り調べ可視化の対象事件を限定して法制化を進める方針を発表した。検察の取り扱う事件は年間約200万件に上り、交通違反、事故など供述の任意性が争いとならない事件が対象に含まれるほか、コスト面の負担が大きすぎると指摘。「実務上の課題を踏まえると、全事件の可視化は現実的ではない」と結論づけた。

 民主党は昨年衆院選で作成したマニフェスト政権公約)で全事件・全過程の録音・録画の実施を明記。千葉法相も昨年の就任時には「基本的には全面可視化」と発言していた。だがその後、省内の勉強会で「可視化は真相解明に程遠くなる」などと捜査現場から反発を受け、現実的な路線に方針転換した。

 18日発表した中間報告は、検察受理事件の約75%が道交法違反や自動車運転過失致死傷など交通事件で、起訴される事件は約6%にとどまると指摘。「供述の任意性が問題とならないものも含まれ、可視化で実現しようとするメリットに見合わない多大な負担やコストとなる」とした。

 暴力団など組織的犯罪では報復の恐れなどから容疑者が真実の供述をためらったり、容疑者に知的障害がある場合は容疑者が取調官に迎合する可能性もあるとして、全過程にこだわらない方法も検討するとした。

 勉強会は来年6月をめどに調査を進める。法制審議会への諮問手続きを踏む可能性があり、早ければ12年通常国会への法案提出を見込んでいる。7月からは国家公安委員会との協議を進める。

 一方、全事件・全過程の可視化導入を求める民主党の「取り調べの全面可視化を実現する議員連盟」は17日、全面可視化を早期に実現する法案提出を法相に要請した。【石川淳一
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100618dde041010026000c.html

先ず『毎日』の記事で使われている「現実的」という言葉の意味が難解だということを言っておきたい。さらに、「現実的」どころか、「暴力団など組織的犯罪では報復の恐れなどから容疑者が真実の供述をためらったり、容疑者に知的障害がある場合は容疑者が取調官に迎合する可能性もあるとして、全過程にこだわらない方法も検討するとした」という部分は、〈超現実的(surreal)〉であるといえる。小倉秀夫*1やApes! Not Monkeys!氏*2がいうように、「意味がわからねぇ」。これはIt’s Greek to me.*3ではなく、端的にIt doesn’t make sense.だろう。なお、「コスト」云々という法務省側の主張はApes! Not Monkeys!氏によって略論破されているといっていいだろう。
さらに、町村泰貴*4は「可視化」問題だけでなく、千葉景子法務大臣を全面的に批判している*5。ただ、千葉氏を少し弁護すれば、「選択的夫婦別姓制度導入」*6に関して遅々として進まないのは、千葉氏や民主党の怠慢や無能というよりも(勿論、それがないとは言わないが)連立のパートナーたる国民新党亀井静香)の影響が強いのでは?