「難民」っていうな?

承前*1

ナベ経由で知る。
先ずはInternet Watchの永沢茂氏による記事;


「お客様は難民ではない」ネットカフェの業界団体が声明

 お客様を「ネットカフェ難民」と呼ばないで──。最近の報道などでよく用いられるようになったこの言葉について、日本複合カフェ協会(JCCA)が使用を止めてほしいと訴えている。

 JCCAはインターネットカフェマンガ喫茶の業界団体で、加盟企業は8月末で235社、各社が運営する店舗は全国に1,361店ある。JCCAによると、「ネットカフェ難民」についてのセンセーショナルな報道の影響により、風評被害で実際に利用者が減っている店舗もあるという。加盟企業から協会としての公式声明を求める声もあって、7月17日には「いわゆる『ネットカフェ難民』について」という文書をJCCAのサイトに掲載。そもそも「難民」とは「戦禍・政難を避けて放浪する亡命者」だとする「広辞苑」の定義を紹介しながら、「一般社会と隔たりのあるケースにおいて『○○難民』と安易に定義づける傾向を私たちは危惧している」などとコメントしている。

 なお、JCCAによれば、深夜にネットカフェを利用する人の中には定職に就くことが難しい人もいることは認めており、地域によってはその数が多いこともあるという。ただし、これを大きな社会問題だとする見方には疑問を投げ掛けるとともに、「お客様は難民ではない」(JCCA)と強調している。

 厚生労働省が8月28日に公表した「住居喪失不安定就労者の実態に関する調査」では、ネットカフェなどに寝泊まりしながら不安定就労に就いている人の実態を報告している。この調査にあたっては、JCCAにも協力の打診があったが、「ネットカフェ難民ありき」の調査だとしてJCCAでは協力を断わったという。
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/08/28/16718.html

また、『報知』の記事;

ネットカフェ難民」は差別語だ…業界団体が声明発表

8月30日8時2分配信 スポーツ報知
 「難民」と呼ばないで−。全国のインターネットカフェマンガ喫茶約1400店が加盟する「日本複合カフェ協会」は29日、「ネットカフェ難民」は差別語だとする声明を発表、今後は使用を控えるよう訴えた。イメージが低下し「風評被害に近い」ダメージを受けているという。同協会は、いわゆるネットカフェ難民が全国に5400人いるとの推計を発表した、厚労省の姿勢にも抗議した。

 「難民」の言葉をはり付けられ、現場では深刻な問題が起きていた。「日本複合カフェ協会」によると、各店で女性客の足が遠のいたとの報告が7月ごろから増えた。本来、男性客が多かった業界で「ネイルサロンを設置するなど各店努力して、女性が増えてきていたのに」と肩を落とす。

 また、オンラインゲームを楽しんでいた人が、対戦相手からカフェでの参戦を突き止められ「やーい、難民が来た」と書き込まれて傷ついたケースも。保護者や教師が、子どもに出入りを禁止する例も増えているという。

 「『難民』はいくらなんでもひどすぎる」と、同協会は29日、メッセージを発表。「中には定職に就くことが難しい方もいらっしゃるでしょう。しかし、私ども複合カフェにとっては皆さん大事なお客様なのです。私たちはそのようなお客様を決して『難民』とは考えておりませんし、絶対呼びません」とある。

 また「あたかも浮浪者風情の人が夜な夜なネットカフェに集まっているかのような報道が、多くのお客様の足を遠のけている」と指摘。7月17日に続いて、同様の趣旨をより強く訴えた。

 日雇いの仕事などをしながらネットカフェを泊まり歩く人を指す「ネットカフェ難民」は「今年1月のテレビ局の深夜報道」がきっかけで流布したとされる。国会でも取り上げられ、厚労省が実態調査に着手。同協会も協力を打診されたが、言葉の定義や使用に疑問を投げかけてきたという。

 28日に調査結果を発表した厚労省には「『初めに結論ありき』の調査手法」「『ネットカフェ難民』の存在をことさら問題視して対策費を計上しようとする厚労省の姿勢に抗議する」とした。

 「年末の流行語大賞にでもなってしまったら…」と、同協会では最悪の事態を懸念。「就労支援をしていくなら、ネットカフェを隔離するのでなく、24時間使えるハローワークとしていかすような発想をしてもらえないか」と語り「柳沢さんよりは舛添さんの方がそういうセンスはありそうだ」と、新厚労相に期待していた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070830-00000100-sph-soci

日本複合カフェ協会*2の言い分も理解することはできる。新たな社会問題が構築されると、それが他方で同時に新たな〈差別〉のネタとして構築される。こういうのは他にもあるのだろう。
ところで、厚生労働省によれば、「ネットカフェ難民」の数は全国で5400人。全国のネット・カフェと漫画喫茶は3246店で、調査の有効サンプル数は1173店である。3246を分母にすると1店あたり2人弱で、1173を分母にすると1店あたり5人弱である。これを多いと見るか少ないと見るか。
また、ナベが問うていたように、メタファーとしての「難民」の流通ということをどう考えるのか。「日本複合カフェ協会」が声明を出したことにも表れているように、「ネットカフェ難民」という言葉はあまり抵抗なく広まっているように思える。その背景と意味は? 取り敢えず指摘しておけば、一般に「難民」というのは(その経緯が何であれ)ホスト社会にとっては余所者であり、アサイラム*3に隔離された人々という含意があることはたしかだ。