「音楽の浄土」

松原隆一郎*1大熊ワタル編『我方他方 サックス吹き・篠田昌已読本』」『毎日新聞』2023年4月29日


1992年に34歳でこの世を去ったサクソフォニスト、篠田昌已について。2008年に出た本の増補版。


1980年代、日本の音楽界で最前線のバンドだった「生活向上委員会」と「じゃがたら」に所属。パンクロックとフリージャズで熱くブロウしたが、その奏法を劇的に変えたのが、下北沢におけるチンドンとの出会いだった。晩年の「コンポステラ」では誰も吹いたことのない美しい音色と世界の民衆音楽にたどり着く。
大友*2の「彼の前に出ると、見栄を張っている自分が小さく見えて、なんだか情けなかったなあ」という言葉が胸を打つ。一介のファンにすぎない評者も30年間、同じ気持ちだった。
チンドンは「用の美」。篠田は音楽の浄土(柳宗悦)に達したのだ。読後ふと横を見ると、あの笑顔で「プリパ」を吹く篠田が現れるに違いない。