「再発防止」の書

松原隆一郎*1「愚行を繰り返さないために」『毎日新聞』2020年4月25日


戸田山和久『教養の書』の書評*2
松原氏によれば、この本は「文科省主導による大学改革の混乱とビジネス界における「教養本ブーム」の後を受け、大学側から投げ返された教養への誘いの書」であるという。


むしろ本書が目標とするのは、科学の専門家が水俣病問題で窒素側に有利な説を唱えて患者を苦しめたり、福島原発では津波は来ないとか全電源喪失は起きないとか、みずから疑いに目隠ししたような愚行の再発防止である。
以前の市民社会論では、市民は理性的かつ合理的と前提されていた。ところが急速に進展している認知心理学によれば、ヒトは認知のコストを節約するため、現実を代表例や思い浮かべやすい事例、ステレオタイプで理解しがちになる。だからこそ専門分野で愚行は繰り返された。「より普遍的な価値を希求し、それに照らして自己を相対化し反省」する能力としての教養こそが必要なのだ、と。
「ビジネス界における「教養本ブーム」」については、

(前略)[「財界」は]日本がチマチマした新製品しか生み出せず「イノベーション」でGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に大きく後れを取った理由として、専門教育の視野が狭いせいとみなしたのだ。昨年*3ベストセラーとなった山口周の『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(ダイヤモンド社)は、サイエンスが「与えられた問題」を解くツールに過ぎず、社会がどうあるべきかを考えるのはリベラルアーツ(人文社会学)に根ざした構想力だと唱える。