松原隆一郎*1「「租税が貨幣を動かす」という主張」『毎日新聞』2019年10月13日
L・ランダル・レイ『MMT 現代貨幣理論入門』の書評。
(前略)[MMTによれば]貨幣とは主権を持つ国家が決めた計算単位にすぎず、商品や金ではない。また国民には、その通貨によって納税義務が課される。ここで政府が先に民間から何かを購入すると、民間はその貨幣を受け容れ、流通させるという。それは何故かというと、政府が租税支払いの際にこの紙幣を受け取ると約束しているからだ、というのだ。著者はこれを、「租税が貨幣を動かす」と表現する。
貨幣経済はこの順で動いているのだから、まず民間から租税を集めて予算とし、その範囲内で財政支出をしなければならないとか、予算を超える赤字財政はインフレをもたらすという通説は、逆立ちした妄想でしかないことになる。
一般的なマクロ経済学とは正反対の結論を持つこの主張をどう評価すべきかだが、評者はほぼ同意している。ただなぜ財政支出から出発するのかについては、説明の力点が異なる。モノで租税を受け容れた(例。米を年貢とした)中世から脱し、貨幣で売買が行われる現代では、貨幣で商品は必ず買えるが、商品が売れて貨幣が得られるか否かは不確実である。そこで(日銀がいくら金融緩和しても)貨幣を貯め込むだけで商品を買わないと、不況が定着してしまう。ここで政府には、率先して貨幣で財政支出し、国民に租税としてその貨幣を還流させて、強制的な貨幣循環を生み出す責務がある。著者が言う「租税が貨幣を動かす」とはそのことだ。