パターナリズムの終わり?

Via https://gyakutorajiro.com/entry/2022/04/29/234613

「『なごり雪』は、なぜ失恋ソングとして優れているのか? いきものがかり・水野が熱弁」https://news.radiko.jp/article/station/FMJ/30462/


伊勢正三*1の「なごり雪」。私が最初に知ったのはかぐや姫のオリジナルではなく、イルカによるカヴァー・ヴァージョンだったけれど。


いきものがかりの曲のなかには、『なごり雪』に影響を受けて書いた曲が何曲もあるのだとか。そのひとつが『KIRA KIRA TRAIN』です。


水野:この曲は、ほぼ『なごり雪』のオマージュです。設定は、ほぼ一緒。冬が終わりかける季節で、ホームが舞台になっていて。
藤田*2:なるほど。
水野:この曲の2番の歌詞を知ってる人はわかると思いますが、この曲は2段構成になっています。1番は男性目線、2番は女性目線です*3。印象も違っていて、かけあいになっています。かけあいといえば、こちらも失恋ソングの金字塔『木綿のハンカチーフ*4。『KIRA KIRA TRAIN』には、いろいろな曲の影響というか、憧れが無邪気に出ているんです。この曲を作ったのは20〜21歳の頃で、フォーマットを真似したり、自分でやってみたいと思って作った曲です。


続いて、「憧れが強すぎて雪を降らせちゃいました」と、紹介したのは『SNOW AGAIN』です。

水野:ポイントは“相手の表情を見ている”というところ。別れ際のカップルって、たぶんなんですけど、おしゃべりではないと思うんです。いろいろなことを語れるような関係だったら別れてないような気がしていて、会話をしてもギクシャクしてしまって、ボソッとつぶやく程度。だから、2人の会話で物語が進行するのは少なくて、どちらかというと黙っていて、お互いの横顔を見て、表情を見て、相手の気持ちを探ってるシーンのほうが多いんじゃないかと。「違う道に進むんだな」と、彼や彼女の表情を見て悟るんです。『SNOW AGAIN』は、その構造の影響を受けています。


なごり雪』は、シチュエーションも大事なポイントです。駅が出てくること。もうひとつは、季節の変わり目であることです。


水野:これは、2大「それだけで名曲になっちゃう、リーサルウェポン」的ポイントです。季節の変わり目というだけで、物語が進行していく感じがします。区切りというのは、必ずドラマが起こるもので、冬から春に変わるだけで、登場人物が違う段階に進むことが、何も説明しなくても伝えることができます。特に冬から春という季節は、すごく使いやすいというか、一番いい物語ができる変わり目なんです。
藤田:なるほど!
水野:大事なのは、ここで向かっていくのは春だということ。グッとくるにはコントラストが大事で、あたたかな印象、始まりの印象のある春に向かうというのに、登場人物たちは別れを迎えたり、悲しさや切なさを抱えている、このコントラストが心を刺すギャップとなるんです。そして、駅にいるというだけでドラマになります。
藤田:駅のもつ、別れの情緒みたいなのがありますよね。
水野:出会いと別れの場所です。駅のホームは電車に乗る人と、残る人。人生を前に進める人と立ち止まる人と、どちらも表現できます。だからすごくわかりやすい舞台なんです。

境界的・両義的な時間や場所。「駅」、勿論空港や波止場もそうなのだけど、内と外が交じり合うというか、内部でもあり外部でもある、内部でもなければ外部でもないインターフェイス(界面)としての場所。人間の身体でいえば、口や性器。ゲオルク・ジンメルの「橋と扉」*5をここでもマークしておく。

水野:ふと彼女の横顔を見たときに、自分が知っている彼女ではなくなっていた。今まで、長い時間を共に過ごしてきたはずだけど、彼女とは違う人生を生きているんだと、主人公は悟るわけです。自分とは違う夢を見ている、違う道を進んでいる。しかも、「彼女にとって進むべき道なんだ。彼女の幸せにとって、これが正しい道なんだ」ということを悟っていて、そこに何もすることができない、ぼう然としている自分がいる。さまざまな全ての感情が歌詞の最後の2行の中に詰め込まれていて、聴き手がいくらでも想像を膨らませることができて、いろいろな物語がうまれていきます。
さて、歌詞の2番を見てみると、この2人の関係は対等な関係ではなかったことがわかる。「時が行けば/幼い君も/大人になると/気づかないまま」。「ぼく」にとって「君」はずっと上から目線の庇護の対象だったけれど、何時の間にか「君」は成長していた。「なごり雪」はそういうパターナリズムの終わりでもあったわけだ。

伊勢正三は大分の人で、この歌にも〈北〉を表す言葉はないのに、東北線とか〈北へ帰る〉という主題が引き寄せられている。東北本線についての歌といえば、矢野顕子の「Night Train Home」。ここで歌われているのは特急はつかり。青森生まれの矢野さんは青森と東京を往復するとき何時もはつかりに乗っていたのだという。但し、作詞は岸田繁との共同。