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吉井理記*1「シリーズ 疫病と人間 社会学小熊英二・慶応大教授」『毎日新聞』2020年8月22日


小熊英二*2へのインタヴュー記事。


コロナ禍で、日本社会にどんなことが起きるのだろうか。考えたことは二つある。
まず、格差の拡大だ。これは日本に限らず、世界で普遍的に起きるだろう。それも、恐らく社会階層の上部が「上」に伸びることによって生まれる格差ではない。伸びるのは例外的な少数で、全体が下がり、階層の下部がさらに落ちて格差が開くという構図が予想される。今回のコロナ禍がプラスに働いたという人や分野は、ごく一部の例外だけだからだ。
格差はどう表れるか。テレワークが可能で、教育や収入も高い知的労働を担う層と、テレワークができない現業労働者との差が広がる。ここでの現業労働者には、「自粛」で打撃を受けた宿泊や飲食といったサービス業も含まれる。
日本では、この差が大企業と中小企業、正規と非正規という形で表れやすい。知的労働は大企業の正社員が、現業部門は中小企業や自営業、あるいは非正規労働者が担うことが多いからだ。(後略)

もう一つ考えたことは、これも大枠でいえば格差の話だが、コロナ禍が子どもの教育に影響を及ぼし、その影響が未来にも及ぶ可能性だ。今は経済への影響が心配されているが、教育の方が将来的には大きな問題になるかもしれない。

(前略)安倍晋三首相は2月29日、小中高校などに対し、全国一律で「3月2日からの休校」を要請した*3。休校機関は地域によって差はあるにせよ、感染者数の多かった東京では、5月末まで約3カ月も学校閉鎖を強いられた。3カ月と言えば、一つの学期に近いほどの長い期間だ。
地域や学校いよって状況は違っただろうが、私は東京の区部に住み、子どもは公立中学校に通っている。2月から4月に学校からはオンライン教育はもちろん、電話連絡すらなく、休校機関に見合うほどの課題もなかった。実質的に放置状態に近かったともいえる。

(前略)カリキュラムについていけない子どもがさらに増える可能性がある。学習は積み重ねだ。小学2年、あるいは中学1年の学習内容でつまずいたら、その後は積み上がらない。たとえは算数の「九九」を覚える段階でつまずいた生徒は、ずっと算数が苦手になってしまう。長期休校を契機につまずき、学習意欲も低下してしまう場合も出てくるだろう。
小熊氏は、コロナ休みの影響は「数カ月から1年後くらいに顕在化してくる可能性がある」と述べている。